単に殴り倒したところで、悪人は悪人のままじゃ

【第5回】
力を持った悪いやつに、立ち向かう勇気が出なかった。
悔し泣きする金田に、活を入れる祖父。
すると、祖父につかまれた腕が金縛りに……これって、金田と同じ「パラライズ」!?
小説すばる新人賞作家・行成薫が描く、先読み不能の「超能力」エンターテインメント!


 じいちゃんにも、自分と同じ能力があったのか、と思ったのも束の間、そのままなすすべもなく膝をつかされ、さらにうつ伏せにひっくり返されて、腕を後ろ手に絞り上げられていた。起き上がるどころか、身動き一つできない。

「なんだ、これ」

 金田のパラライズと違って、体の硬直はじいちゃんがへらへらと笑いながら手を離すと、あっさり解けた。

「どうじゃ。腕力(かいなぢから)なんぞ、さほど使っておらん」

「どうもなにも、勝てる気がしなかった」

「そう思わせるのが大事というこっちゃ。力ちゅうのはな、使わんことが一番でな。武道家というもんは、みんな力を使わなくて済むようにと修練を積んどる」

「は? どういうこと? 武道家なのに?」

「負けないように強くなろうと、技を磨き、体を鍛えているうちに気づくんじゃ。人は老いる。身体的な能力には限界がある。力と技をいくら鍛え上げても、いつかは、若い者に勝てなくなる」

 じいちゃんなら死ぬまで負けねえよ、と金田は苦笑いをした。

「だからの、どの武道でもそうじゃが、最後はここを鍛えることに辿り着く。必ずな」

 じいちゃんの拳が、どん、と金田の胸を突いた。小さく骨ばった拳なのに、体の芯に、じわりと衝撃が残った。

「心?」

「そう。心で勝って、敵の悪い心を制する。単に殴り倒したところで、悪人は悪人のままじゃろう。悪人が改心して初めて、正義は成る」

 警察官にも言えることだの、と、じいちゃんは笑った。

「力もねえのに、心だけでどうにかなるもんかな」

「無論、そう簡単にはいかんさ」

 じゃあだめじゃん、と、金田はため息をついた。

「だが、一つ覚えておくがいい。悪いことをするやつというのは、総じて心が弱いのだ」

「弱い?」

「誰だって、悪いことをしちゃいかん、ということくらい知っておる。それでも悪事に手を染めるのは、心が弱いからだ。欲望や誘惑に負けた己の弱い心を隠そうとして、噓をついたり、人を傷つけたりする」

 ふと、「このハゲ!」と怒鳴った先輩社員の顔が金田の脳裏に浮かんだ。

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