人工知能に代替できないのは作家の存在そのもの—平野啓一郎インタビュー 後編

高橋源一郎さん、瀬戸内寂聴さん、谷川俊太郎さん、横尾忠則さん、筒井康隆さんなどの豪華なインタビューが収録される『現代作家アーカイヴ』(東京大学出版会)。その刊行を記念して、企画をした作家・平野啓一郎さんにお話を伺いました。(聞き手:加藤貞顕)
『現代作家アーカイヴ』の本の内容も、cakesで特別連載中。あわせてお楽しみください。

文学者が集まることのメリット

— 『現代作家アーカイヴ』、平野さんは企画と聞き手もされていますね。

平野啓一郎(以下、平野) ええ。でも僕の一番重要な役割は、ブッキングなんです。

— おお、そういう調整も平野さんが自らされるんですか。

平野 作家をブッキングするのは、やっぱり気を使います。みなさん、お忙しいですし、色々なご事情もありますし、謝礼も薄謝だし。僕たちは有意義だと思ってやってますが、理解してもらえるかどうか、ということもありますし。あと、インタヴュアーの手配とか。ある年齢以上の人はメールも使わないから、手紙を書いたり、直接電話をしたりしなければいけない。

— 大御所の作家さんにいきなりお願いの電話をするわけですよね。すごく気が重い(笑)。

平野 多かれ少なかれ、みんなそうじゃないかと思いますが、電話でお願いしたりとか、そういうことがこの20年くらいで極端に苦手になってますね。ハガキでお願いするにしても、往復葉書で○だけつければ返事になるようにして送ったり。
 ただ、各出版社の担当編集者がとても協力的で、すごく助かっています。そういう意味では、飯田橋文学会だけのプロジェクトではなくて、大学から出版社から色んな方面から支えられています。

— おお、とても心を砕いて依頼されていたんですね。

平野 こういう苦労って僕ら以外の人にとっても同じはずなんですよね。作家に仕事を頼みたい人にとって、作家にアクセスする方法というのが一つの関門になってる。自分でサイトを持ってれば、簡単なんですが、必ずしもそうでもないですし。ある企画に何人かの作家に出てもらいたいとか、そういう要望がけっこう飯田橋文学会にきたりします。

— おお、そういう依頼が集まるようになったんですね。

平野 このつながりを通じていろんなことがしやすくなったんですよ。僕は、韓国の延世大学とか、中国の北京大学とかの講演招かれたりしているんですが、それは飯田橋文学会の人脈もあるんです。あと、海外の翻訳者に遊びに来てもらって、色々、現地の状況を聞いたり。

— すばらしいですね。

平野 あと全国にいろんな文学館があるじゃないですか。

— ああ、ありますね。『○○記念文学館』みたいな施設が。

平野 実は全国に660もあるらしいんですよ。

— そんなにあるんですか!

平野 都道府県が47しかないのに(笑)。そういう文学館との共同企画とか、まあ、色々考えられることはありますね。東京と比べると、地方は文学イベントも少ないですし。飯田橋文学会でツアーして回るとか(笑)。

— 小説家の言葉を届ける、ライブハウスみたいなもんですね。

作家同士の交流が文学の養分に

平野 そんなこんなで、会自体は、みんながまとまって何か特定の文学運動をしようとか、そんな大それたことを考えてるわけではないんですよね。

— そうなんですか。

平野 単に今って人と文学の話をする時間がすごく短いんじゃないかと思っていたんです。

— あ、ご自分がですか?

平野 ほとんどないんですよね。作家同士だと、何年かに一回、雑誌の対談で2時間くらいしゃべるぐらいの機会はあるんですけど、次に会うのは数年後とか。

— 今の作家さんは文壇バーとかにもあまり行かなそうです。

平野 若い人はSNSとかで、交流しているのかもしれないけど、僕たち現役の作家も、もっと交流していいのにと。
 文学が好きで小説家になったのに、編集者とは文学論をぶつけあうわけでもないし、誰かと文学の話をしたいなって思ったんですよね。聞いてみると他の作家も同じように感じていて。

— なるほど創作にも役立つんですね。

平野 ええ。昔は森鴎外の観潮楼歌会とか、早稲田文学とか三田文学のような同人誌とか、作家同士がもっといろいろな話をする場がありました。

— 作家だけでなく、アーティストもアトリエやサロンで交流していましたよね。

平野 そうです。印象派からキュビズムに至るムーブメント、文学運動なんかがそれぞれの時代にあって、その中から新しいクリエイティヴが生まれてきた。

— そうか。ゴッホとゴーギャンが交流したりしてましたよね。そうなると、普通に絵の描き方について議論したりしてた可能性は高いわけで。小説だと、文芸誌にそういう機能はないですか。

平野 もちろん、ありますし、それが重要なことは間違いないんですが、誌面にも限りがあるし、対談とかだと、終わった後の雑談の方がおもしろかったりとか、ざっくばらんなものの中に豊かなものがあって、それをすくい取るには、場所が必要かなと。文芸誌とか雑誌に出ている書評とかも、もうちょっと執筆者に直接聞いてみたとこととかありますよ。本当のところ、どう思ってるのかな、とか。

— ああ、それは、けなしたりしにくいということですかね?

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平野啓一郎

高橋源一郎さん、瀬戸内寂聴さん、谷川俊太郎さん、横尾忠則さん、筒井康隆さんなどの豪華なインタビューが収録される『現代作家アーカイヴ』(東京大学出版)。その刊行を記念して、企画をした作家・平野啓一郎さんにお話を伺いました。(聞き手:加藤...もっと読む

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コメント

kimu0117kazu ”ある意味では、いまはもう一度、生きてる作家がものを書いているという当たり前のことを再確認する時代なのかな” 30日前 replyretweetfavorite

libro_jp 人工知能に代替できないのは作家の存在そのもの ――平野啓一郎インタビュー 後編 平野啓一郎 @hiranok | 30日前 replyretweetfavorite

limeA 平野氏と文学者、大学、もっとやり取りがあってよい。 https://t.co/RxFTKAIm1o 30日前 replyretweetfavorite

hiranok 『現代作家アーカイヴ』書籍化インタヴュー、後編です。これまた、派手なタイトルがついてますが、中身をご覧ください~。天気の悪い週末、是非、本を手に取り、動画を楽しんでみてください~! / 人工知能に代替で... https://t.co/RPWVQq5zyt #NewsPicks 30日前 replyretweetfavorite