第211回 無限ポテチ(前編)

ユーリが求める《無限ポテチ》とは何か? 「無限を探そう」シーズン第1章前編。
登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

ユーリのいとこの中学生。 のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。
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ユーリ

ユーリは、リビングでポテトチップスを食べていた。

ユーリ「はー、からくておいしい……からうま!だにゃ」

「ユーリ、すごい勢いで食べてないか?」



(※イラストは「いらすとや」さんから)

ユーリ「だって、おいしいんだもん。あー、ちょっと待った!そーゆーの、いまどき問題発言なんだよ」

「何が?」

ユーリ「そんな勢いで食べていたら体重がアーだとか、体型がドーだとか、そーゆーのはダメ!」

「そんなこと、何も言ってないじゃないか」

ユーリ「言ってからでは遅いのじゃ……はー、おいしい……あれ、もう無くなった?!」

「食べたからね」

ユーリ「ぐぬぬ……はー、無限ポテチほしい」

「なんだそれ」

ユーリ「んー、だから、いくら食べても無くならないポテチ。無限に食べ続けられるし、いくら食べても(ピ—)にならないの」

「都合がいいなあ。いくらおいしいポテトチップスでも、食べ続けていたらおいしくなくなると思うんだけどね」

ユーリ「またまた、そんなマジレスすんだから。想像して楽しんでるだけなんだしさ。 それに、《無限ポテチ》では、ちゃんとリセットされるんだよ」

「リセット?」

ユーリ「一枚取り出して食べるじゃん? おいしく感じるじゃん? 飲み込んだら、その味覚がリセットされるの。まるで一枚も食べてなかったみたいに。 そしたら、食べ続けてもぜんぜん飽きない! サイコー!」

「都合よすぎじゃないか、それ……」

無限のイメージ

「ユーリは無限というとどんなイメージがあるんだろう。無限に食べ続けられるポテチ以外で」

ユーリ「宇宙!」

「へえ……宇宙」

ユーリ「どこまでも広がってて、どこまでも行ける宇宙!」

「なるほどね」

ユーリ「お兄ちゃんは? 無限ってどんなの?」

「そうだなあ。イメージとは違うけど、大きい数の勝負を思い出すかな」

ユーリ「大きい数の勝負?」

「小学校のとき、よく言い合いになったよ。どっちが大きな数を言えるかって勝負で言い合い」

ユーリ「なにそれ。なぜにそんな勝負になるの?」

「いや、大した理由はないんだよ。たとえば『そんなこと100年前からわかってたぞ』みたいに言う。 それに対して『違うぞ、200年前からわかってた』と言い返す。 あとは数のインフレ。 『千年前!』『一万年前!』『一億年前!』『百億年前!』『千億年前!』 ……みたいに、言い合いが続くんだ」

ユーリ「何という小学生男子。千億年前って人類存在したっけ?」

「宇宙も存在してないよ。とにかく、そんなふうにして『どちらの方が大きい数をいえるか競争』 になることがよくあったんだ。ロボットの身長とか、 宇宙船に乗せられる人数とか、題材は何でもいいんだけどね。 『そんなのどこにもないー!』『作ればあるー!』みたいな」

ユーリ「はあ……お兄ちゃんにも、そんな時代が」

「言い合いはなかなか終わらない。そのうち、数の表現がめちゃくちゃになってくる。 『千億兆兆兆兆年前!』みたいにね」

ユーリ「あはは! 前前前世みたい」

「そんなときに無限を感じたことがあったよ」

ユーリ「言い合いで?」

「うん、そうだね。お兄ちゃんじゃないけど、誰かが『足す$1$』っていう言い返しを導入したんだ」

ユーリ「たすいち」

「『百億』に対して『足す$1$』って言い返す。つまり『百億一』っていう主張。 どんなときでも『足す$1$』って言えば、 相手よりも大きな数を作れることになるよね」

ユーリ「あー、そりゃそーだね」

「その『足す$1$』っていう一言は、どこまでも続くとか、 いくらでも繰り返せるとか、 そんな感じがする」

ユーリ「だからそこに無限を感じる?」

「そうだね。でも、『足す$1$』が出始めると、 言い合いも立ち消えになっちゃうんだ。 それまで勢いよく百億!千億!といってたのがひゅんとしぼむみたいに」

ユーリ「あー、それわかるかもー」

正の整数

「数学を勉強していくと、あの『足す$1$』っていうのはなかなか深い話だったんだなあ、 と思うよ」

ユーリ「なんで?」

「たとえば、正の整数は無数にあるよね。$1,2,3,4,\ldots$というように」

正の整数

$$ 1, 2, 3, 4, \ldots $$

ユーリ「あー、無限個あるってこと?」

「そうだね。数学だと無限個という言い方をすることは少ないけど、 そういうこと」

ユーリ「$1,2,3,4,\ldots$ってどこまで数えていっても、限りが無いから、無限。終わりがない」

「うん、そうだね。正の整数$1$に『足す$1$』した$2$も、正の整数になっているし、$2$に『足す$1$』した$3$も、 正の整数になっている。 どんな正の整数$n$を選んだとしても、 『足す$1$』したものはまた正の整数になってる。 しかも、$n$に『足す$1$』したものは、 $1$から$n$までの正の整数のどれよりも、必ず大きくなってる。 だから、正の整数は無数にあることになる」

ユーリ「ほほー……それって《無限ポテチ》とおんなじだ!」

「何が?」

ユーリ「『足す$1$』は、いくらでも繰り返せるんでしょ? 一枚食べても食欲がリセットされるのと同じじゃん」

「それって同じなのかなあ……」

ユーリ「えー、同じだよー!」

「『ユーリはなぜ同じかを説明する』」

ユーリ「ミルカさまの真似しないで! こっち指ささないで! ……あのね、同じだと思うのは、 いつでも繰り返せるから。必ず繰り返せるから。 ちゃんと繰り返せるから。だから無限に……うー、説明できにゃい!」

「こういうことかなあ。《無限ポテチ》……無限に食べられるポテトチップスがあったとする。それは、$n$枚食べても『もう$1$枚』食べられるという保証がある」

ユーリ「うんうん!」

「$n$が正の整数なら、$n+1$も正の整数になるという保証がある。それは確かに似てるかな」

ユーリ「でしょでしょ? その保証があるから、無限にできるんだよ」

「……」

ユーリ「どしたの?」

「いや、その保証ってどこから来るのかなと思ってたんだ。『足す$1$』できるということも保証になっているし、 そもそも、$n$という文字自体が繰り返しを作り出す保証になっているよね」

ユーリ「?」

「だって、$1$は正の整数、$2$は正の整数、$3$は正の整数、とずっと言い続けることはできない。それこそ無限の時間と無限の手間を掛けなくちゃいけないから。 でも《どんな正の整数$n$についても成り立つ》みたいに、 $n$という文字を使った主張が作れれば違う。 無限の時間がなくても、無限の手間を掛けなくても、 無限を含んだ主張ができるんだな、と思ったんだ」

ユーリ「ほほー?」

「うん、だから、数学で《文字を使う》というのは超絶に強力なことなんだね」

無限大の探求

ユーリ「ねえ、お兄ちゃん。数学で無限大って出てくるでしょ。$\infty$のこと」

「うん、出てくるね」

ユーリ「あれって、数?」

「いや、普通は$\infty$は数としては扱わないね。$\infty$を数のようにして扱う理論もあるけれど」

ユーリ「でも、正の整数$1,2,3,\ldots$っていくらでも大きくなるよ。だったら、無限大$\infty$も正の整数の仲間じゃないの? $1,2,3,\ldots,\infty$みたいに」

「ユーリは鋭いなあ! でも、そうは考えられないよ」

ユーリ「なんで?」

「$n$が正の整数のひとつだとするよね。そうしたら、必ず$n < n + 1$になる」

ユーリ「そだね。『足す$1$』したら大きくなる」

「じゃあ、もしも$\infty$が正の整数の一つだとしたら、$\infty + 1$も正の整数で、しかも、 $\infty < \infty + 1$にならないとおかしいよね?」

ユーリ「う。……そだね。そんで?」

「だとしたら、$\infty$よりも大きな正の整数が存在することになってしまうよ。 それはおかしいよね」

ユーリ「えーと……」

「話がごちゃごちゃしてきたなあ。何が問題になっているか、少し整理してみよう」

ユーリ「わくわく!」

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数学ガールの秘密ノート

結城浩

数学青春物語「数学ガール」の中高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わいましょう。本シリーズはすでに12巻も書籍化されている大人気連載です。 (毎週金曜日更新)

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コメント

orions3434 台風の日にぴったり?な話を解放してくれた結城先生ありがとうございます。 文系の人に響く数と論理の話!大好きな回です。 12ヶ月前 replyretweetfavorite

hyuki 過去記事を無料公開します。ユーリと「僕」との楽しい数学トークです。 ーーーー 無限ポテチ(前編)|結城浩| 12ヶ月前 replyretweetfavorite

maki_glenscape 相変わらず、読んでハッとさせられる切り口です。 ところで、二倍ダッシュの真ん中が切れないようCSSで詰めてあるところにも、著者のプロ意識を感じます。 3年弱前 replyretweetfavorite

Meizen_OS 自然然然数から僕は無限探しはじめたよ その帰納的な再帰的をめがけて、やってきたんだよ https://t.co/PK1aU0euh2 3年弱前 replyretweetfavorite