心臓一突きの死
もうひとつ心臓が止まる原因として、「心タンポナーデ」というものがあります。タンポナーデは生理用品の「タンポン」と同じ語源で、「詰める」という意味です。外傷や、「大動脈瘤」の破裂などで、心臓から出血し、心臓を包む「心嚢」という袋に血液が溜まると、心臓が圧迫されて動けなくなるのです。銃で撃たれたり、ナイフで刺されたとき、心臓をかすっただけでも死ぬのは、この状態になるからです。
1898年に、テロリストに殺害されたハプスブルク帝国の皇妃、エリザベート(1837~1898)の死因も心タンポナーデでした。エリザベートは当時、欧州きっての美貌と謳われ、残された写真や肖像画からは、評判に違たがわぬ美しさと気品が感じられます。
[皇妃エリザベート]
オーストリア皇妃。
欧州随一の美貌で知られたが、旅行中、
イタリア人アナキストに心臓を突かれて死亡。
しかし、その死はかなり特殊な状況だったと言わざるを得ません。旅先のジュネーブで、船に乗り込もうとしたとき、イタリア人のアナキスト、ルイジ・ルケーニ(1873~1910)が、拳を振り上げてエリザベートに襲いかかりました。彼女はその場に倒れましたが、助け起こされたときは、「大丈夫です」と応え、「あの男はわたしの時計を奪おうとしたのではないかしら」と言ったそうです。そのまま船に乗り込んだあと、しばらくして意識を失い、事件から約20分後に死去したのです。
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