シニアチアチーム「ジャパンポンポン」誕生
アメリカから帰国したのが57歳。留学生活をまとめた『女53歳からのアメリカ留学』(ミネルヴァ書房)という本の執筆・出版などがありましたが、帰国後は父が残した会社の手伝いをしながら、平凡な毎日を過ごしていました。
そして、1995年、62歳のときです。アメリカから送ってもらった本を読んでいると、そこに「平均年齢74歳のチアリーダーグループがある」という一文を目にします。
「えー! お年寄りがチアできるの!?」
スカイダイビングだって何だって年齢に関係なくできるし、53歳でアメリカの大学院に留学することだってできます。 「年だからできないことはない」と思っていたし、実行してきたつもりなのに、お年寄りがチアリーダーをするなんて、微塵も考えたことがなかったのです。
シニアでもチアリーダーができるという驚きはもちろんですが、「チア=若い人のするもの、以上、終わり!」と、自分で年齢の枠を作っていた、固定観念にまだまだ縛られていたことに気づいたのです。 だったらやってやろう!
日本で誰もやってないなら、私がやろう!
そこからはもう、勢いです。
アメリカのチアリーダーの代表に、「自分もチアをやってみたいのだけれど、どうしたらいいのか? 教えてほしい」と手紙を書きます。
手紙の直訴は得意中の得意です。でも、手がかりは、本に書かれていた、わずか2行の情報だけ。アリゾナ州のサンシティで活動していることはわかっていたので、サンシティの郵便番号と「サンシティポンズ リーダー様」宛てとだけ書いてエアメールを出したのです。
普通、そんな宛て名の書き方で届くわけがないと思うのですが、偶然にも、その代表の方は20年以上郵便局で働いていたらしく、「あの人のことだろう」ということで彼女の元へ私の手紙が届いたのです。 奇跡としか言いようがありません。
彼女はとても筆まめな人で、手紙のやりとりを重ね、いろいろなことを教えてくれました。
そして、その年の暮れに、渋谷に友だち10人ほどを集めて、サンシティポンズのリーダーが送ってくれた写真を見せながら、「やってみない?」と誘ったのです。 「やる! やる!」と、その場でノってきた友だちも、たいしたものです。じゃあ、はじめるのならコーチが必要だろうと、そのままその足で青山学院大学の渋谷キャンパスに向かいました。
友だちの一人が青山学院大学の出身で、渋谷から近いという理由だけで、青学のチアリーディング部の学生さんに教えてもらおうと思ったのです。
でも、青学のチアリーディング部は当時は厚木校舎でやっていて、渋谷にあったのはバトン部。それでも、「バトンもチアも同じようなものよね」と気にもかけずにアポなしで訪問。戦中派だから知識はなくとも行動力だけはあるんです。
そして、バトン部のキャプテンに会い、開口一番、「あなた、教えてくれない?」って言ったんです。 「はあ? 誰にですか? 娘さんに?」
「いえ、私たちによ」
「へぇえ?」
そんなやりとりではじまりましたが、彼女がコーチを引き受けてくれ、1996年1月、5人で「ジャパンポンポン」の活動がスタートしました。
お遊びサークルではなく、ガッツリ体育会系
練習は区のシニアセンターを借りて週に1回。その年の夏には、早くも初舞台を果たしました。誘われるがまま学生さんのバトンの発表会に出て、チンタラしたダンスを披露したわけですから、我ながらホント、怖いもの知らずです。
そして、4年目の1999年、週刊誌の記事に取り上げられたのをきっかけに、マスコミが押し寄せてきて、ジャパンポンポンは大ブレイクします。
毎週毎週、何かしらの取材がやってくるアイドル状態。といっても、勝手がわからないので頼まれるとホイホイ出ていっただけで、なぜだか、ボウリング場で踊らされたこともありました。
一度、どこかのテレビ局が取材に来たときのことです。私がよそ見をしている間に、メンバーの一人をつかまえて、ポンポンを高く遠くに投げて、それを滑り込みで取るシーンの撮影をはじめていたんです。しかも、後ろから撮影して、スカートがまくれて見えるお尻をカメラで狙っている。
「やめてください!」とすぐに撮影を中断させ、帰り際には「絶対に放送しないでください!」と念を押したのですが、放送されてしまいました。
腹立たしい! 年寄りのチアリーダーという物珍しさで取り上げられているだけで、注目されるのは一過性のものだとは重々承知していました。それでも、お尻を見せるため、見せ物になるためにチアダンスをやっているわけではありません。
それからは、取材には厳しい条件をつけるようになりましたが、メディアの影響は大きく、テレビや雑誌に出るたびに入会希望をいただき、ジャパンポンポンは大きくなっていきました。
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