愛川ゆず季がガラスの靴を脱ぐとき

格闘技専門チャンネル・FIGHTING TV サムライのキャスター三田佐代子さんに今回書いていただいたのは、この春引退する女子プロレスラー・愛川ゆず季さんについて。元日テレジェニックで、アイドルとしてリリースされた写真集は5冊、DVDは10本以上という彼女の名前を、ファン以外でもご存じの方は多いはず。では女子プロレスに挑戦した愛川さんは、どんなレスラーだったのか。愛にあふれる三田さんの文章を読めば、きっと愛川さんの花道を見届けたくなるはずです!

「グラビアアイドルもプロレスラーも同じ椅子取りゲームなんですよ。」

そうつぶやくのはこの4月29日に引退する、ひとりの女子プロレスラーです。彼女の名前は愛川ゆず季、29才。職業はグラレスラー(グラビアアイドル+プロレスラー)。可愛い顔に100センチのバスト、バレエとテコンドーで鍛えた肢体を存分に活かして躍動し、顔をボコボコに腫らし痣だらけになりながらも試合後はセクシーなポーズでカメラマンの要求に応えてきた、女子プロレス界奇跡の人です。


3月27日、浅草花やしきで行われた路上プロレスに参戦。『ゆずポンにプロレスは楽しいものだと思って欲しかった』と
この試合を企画した、DDTプロレスリングの高木三四郎選手と。

わずか2年半というレスラー生活を全力で駆け抜け、その頂点の中で惜しまれつつリングを降りる。彼女の存在がなければ、この2年のプロレス界はどれほど色味のないものだったでしょう。彼女によって女子プロレスというジャンルは世間から再注目され、息を吹き返しました。

と同時に、ひとりの女性として「愛川ゆず季」もまた、プロレスによって蘇った人でした。自分が「崖っぷちアイドルだった」と明るく公言している愛川選手ですが、実際に彼女はアイドルとしてどういうポジションにいたのか。グラビアアイドル評論家の真実一郎氏にうかがったところ、このような返事が返ってきました。

「彼女の存在を決定づけたのが、2009年の『崖っぷち』(TBS)という番組の企画への出演です。ブログに3カ月で2000万アクセスが集まれなければ強制的に芸能界を引退させるという企画で、その中でスタッフから豚呼ばわりされたり、水着姿の体に『豚女』と落書きされたりしてネットで結構話題になりました。愛川さんのデビュー当時は若槻千夏、小倉優子やほしのあきに代表される、肉体よりもトークで勝負するバラドル志向のグラドルが全盛期の頃だったので、彼女のようなムチムチ巨乳はあまり活躍できなくなっていたんです」

女子プロレスラーとして輝きを放つほんの1年前のことです。そんな彼女がプロレスラーになると宣言した時、プロレス界側では相当数の人が「単なる話題作りだな」と捉え、グラビア側からも「どうせ企画ものだろうから長くは続かないだろう」と捉えていた。グラビアアイドルのプロレスデビューとして話題になったのと同時に、彼女は大きなハンデも背負ってデビューすることになりました。

1983年、愛媛県新居浜市で果汁加工会社の社長令嬢として生まれた愛川ゆず季選手。小さい頃からバレエを習い、御殿のような大きな家で何不自由ない生活を送ってきました。本来ならばハングリー精神とか、苦労とかからはほど遠い世界にいたはずの彼女が、なぜ自らの身体1つで成り上がっていかざるを得ない世界に飛び込んだのか。

「グラビアアイドルもプロレスラーも同じなんですよ。空いた椅子に誰が座るのか、いつも狙っているんです」

淡々と愛川選手は語ります。女子プロレスラーとしての彼女しか知らない私にとって、愛川ゆず季という存在は常にリングの中央で自信に満ちあふれていて、身体能力も高く、センスもあり、しかも言葉に力があった。しかしリングを一度降りると彼女は常に何かに追われているようで、孤独でした。

デビュー当時から堀田祐美子、ダンプ松本といった大ベテランと試合が組まれ、タイトルマッチのチャンスも早く巡ってきた。プロレス界の女帝であるブル中野選手にも見初められてブル中野興行のメインイベンターに抜擢された。与えられたハードルのひとつひとつを彼女は死に物狂いで乗り越え、そして階段を一足飛びで駆け上がり、あっという間に女子プロレスの頂点に立ちました。その裏には当然、ねたみもやっかみもあったはずです。

「プロレスラーに友達いないですよ。休みの日もほとんど一人だし、試合の前はプロレスのことばっかり考えるし。もちろん恋愛なんてしてないし、つまらない女になってしまいました」

そういいながら笑う愛川選手でしたが、実家のご両親に反対され、仕送りも止められ、雀荘でアルバイトをしながらもプロレスに賭けた。「本当は手足が長かったらバレリーナになりたかった」と言う彼女にとって、バレエでもなくグラビアでもなく、最後に賭けた自己表現がプロレスで、そしてそれは20代後半になっていた彼女にとってはラストチャンスでした。恵まれた家庭環境に育ち、顔も可愛く、男性の目を釘付けにするスタイルを持ち、それでも彼女は何かを渇望していた。

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三田佐代子

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コメント

die_kuma 三田さんの記事は も本当に素晴らしかった。 5年弱前 replyretweetfavorite

tmn4001 読みましたが、元々レスラーである人々はここまでの現実をどう考えているのか、危機感をもっていてもそれを何とかしようと思ったのが逆に疑問 5年弱前 replyretweetfavorite

345m 愛川選手引退の日です。まだ両国に行こうか迷っている方の背中を押すために、また1時間無料購読できます。 【11:49まで無料】 #両国シンデレラ #スターダム 5年弱前 replyretweetfavorite

kanbakanba 三田佐代子さんの「 5年弱前 replyretweetfavorite