レシピ本はいる?いらない? 稲垣えみ子✕高橋みどり対談【第1回】

「もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓」が大きな話題になっている稲垣えみ子さん。かたや、料理本の名作を数々作ってきた、スタイリストの高橋みどりさん。高橋さんのファンだったという稲垣さんからのラブコールで実現した、スペシャル対談。レシピ本はいる?いらない? 家でつくるごはんのおいしさってなんだろう。2回続けてお届けします。

レシピ本を見ないと料理ができなかった

稲垣えみ子(以下、稲垣) 高橋みどりさんにお会いするのは初めてなんですが、以前クウネルで高橋さんが連載していた「伝言レシピ」という記事が大好きだったんです。本にもなっていますね。

高橋みどり(以下、高橋) はい、シリーズで4冊出ています。いちばん新しいのが1年前に出した「ありがとう 料理上手のともだちレシピ」です。

稲垣 高橋さんがお知り合いの方に作り方を聞いて、そのレシピが載っているんですが、レシピ本を作るためのレシピじゃなくて、その人が実際普通に毎日つくっている料理なんだなというのが伝わってくる。例えば、普通のきつねうどんなんだけど、上に乗っているのが薄揚げじゃなくて厚揚げなので「大きつねうどん」とかね。思わず笑っちゃうんですけど、油揚げ好きとしては「なるほどその手があったかー」と。そんなテキトーな感じに癒されてました。

高橋 聞いた通りに作るんですが、人によって様々な表現なので、そのあたりは自分がおいしいと思う分量にして紹介しています。だから、ともだちレシピではあるんですけど、自分流に変わっていますね。

稲垣 なるほど! だから「伝言」なんですね。伝言ゲーム。少しずつ変わっていくという。

高橋 その料理を自分は食べたことがないし、想像でつくっているので。でも料理に失敗とか成功とか、正解はないと思うんです。おいしければいい。それが料理の楽しさでもあるわけで。

稲垣 そのゆるさが心地よかったんだ。「伝言レシピ」を好きだった理由がわかりました。

高橋 失敗したって食べられないわけじゃないし、そこからまた新しい料理が生まれたりね。

稲垣 本当にそうですよね。それが自分で料理をする楽しさです。でも私はずっと、そんなふうに思えなかったんです。今回『もうレシピ本はいらない』という本を書いたんですが、もともとは、レシピ本を見なければ料理ができないというタイプ。あれこれレシピ本を買ってはどんどん新しい料理に挑戦して、それはそれで楽しくはあったんですが、そんなことを続けているうちに、なんか、これ、ゴールがないな、と思い始めて。どんどん大変になっていくばかりなんですよ。鍋も調味料も増える一方だし。
 料理が好きだったはずなのに、何か本当の楽しさから遠ざかっていくような違和感があったんですね。


もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓(マガジンハウス)

高橋 調味料は本当は最少限で足りるのに、いろんなものが出てますからね。

稲垣 もうね、調味料入れが世界の調味料でパンパンなんですよ。一回使っただけで何年も出番がないものもたくさん出てきて台所はごちゃごちゃになるし、すべてがどんどん複雑になってきて、なんだかとても窮屈な感じがしてきたんです。それを変えるきっかけになったのが、ひとつは東日本大震災だったんですね。原発事故があって、節電しようと思って、冷蔵庫をやめることにしたんです。

高橋 それは大きな決断ですね。

稲垣 まわりにも絶対無理だからやめろ、とずいぶん言われました。でも、冷蔵庫って江戸時代にはなかったわけで、その真似をすればいいんじゃないかと。で、時代劇を見ると、庶民の食事は飯、汁、漬け物で、それでおしまいなんです。ご飯はまとめて炊いておひつに入れておき、汁だけ温かいものをつくる。汁だけならすぐできるし、これは合理的だな、と。しかも登場人物がそれをやたらと美味しそうに食べる(笑)。

献立に悩まないという発見

高橋 ごはんが主役ですね。

稲垣 それまでずっと、おかずがたくさん並んでいるのが豊かな食卓だと信じてきたので、ご飯は脇役で、お米自体もそんなに食べなかったんです。ところが、飯がどん、汁がどん、と来ると、それだけでお腹いっぱい。あれもこれもつくらなきゃ、という発想がなくなって、レシピ本を開く必要もない。本当にたくさん持っていたんですが、全部人にあげました。一汁一菜だと時間もお金もかからないし、何よりよかったのは、献立に悩まなくてすむようになったこと。そして、このシンプルなごはんが本当においしいんです。時代劇の食事シーンはやらせじゃなかったんですよ(笑)。自分にとっておいしいごはんが、レシピ本を見なくても簡単につくれるという自信。これは大きかったですね。それでつい、会社も辞めてしまったんですが。

高橋 これでやっていけると思ったんですね。

稲垣 そうなんです。だっていま、1食200円くらいなんです。給料がなければやっていけないと思ってましたが、これなら大丈夫じゃないか、と結構強気になりまして。会社を辞めて、部屋も安くて小さいところに引っ越したら、ますます江戸時代に近くなって来た。ガス契約もしていないので、料理はカセットコンロひとつでやっています。別に、こういうことを真似してほしいわけではないですが、なにも毎日違うごちそうを作ることだけが「豊かな食卓」じゃないんだという大発見をお伝えしたくて、本を書いたんですね。

高橋 レシピ本にふりまわされていた、ということですね。

稲垣 そうなんです。ちゃんと自分の中にコアがあって、うまくレシピ本を自分流に使いこなせる人はいいと思うんですが、私はそうじゃなかった。自分にとって何が本当のごちそうなのか、自分は本当に何を食べたいのかをちゃんと考えてこなかったんですね。で、その原因はただただレシピ本をひたすら買い続けていたからなんじゃないかと。料理本のスタイリングを多数手がけて、ご自分でもレシピ本を出されている高橋さんに、こんなことを言って申し訳ないんですが。

高橋 いえいえ。私も、本当はレシピ本はいらないんじゃないかな、と思うことはありますよ。本屋さんに行くと、ものすごい量のレシピ本があって、複雑な思いになったり。あと、いまレシピ本がとても細分化されているじゃないですか。親切なのかなんなのか、ここまでする必要はあるのか、と。昔の料理本なんかを見ると、逆にすっきりしますね。レシピ本って、もしかしたら、文字だけでもいいし、写真がなくて絵でもいいのかもしれない。作り手からすると、ここ数年は、あまりにも手取り足取りの本が多すぎるなあ、とは思いますね。親切そうに見えて、読者のイマジネーションを邪魔しているんじゃないかと。なるべくそうではない本をつくっているつもりですが、読者の皆さんには、たくさんの中からいい本をぜひ探し出してもらいたいですね。自分は何を食べると心地いいのか、どんな味が好きなのか、そういうことをきちんと知っていれば、必要なレシピ本というのはわかると思うんです。レシピ本はいらない、じゃなくて、レシピ本は選んでほしい、ですね。

自分の味を発見するまで

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アフロえみ子の「自由メシ!」

稲垣えみ子

アフロで無職で独身の、稲垣えみ子53歳。朝日新聞退社後、激変したのは食生活。メシ、汁、漬物を基本に作る毎日のごはんは、超低予算ながら、本人はいたって満足。冷蔵庫なし、ガスコンロは一口、それでもできる献立とは!? レシピ本不要、作り置き...もっと読む

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コメント

chocolatekillsK 性別も年齢も超越してる感じ。。此の域。。足を踏み入れたいのか踏み入れたくないのか。。 3年弱前 replyretweetfavorite

mad_molix みんな大好き節電アフロだよー❤️ 3年弱前 replyretweetfavorite