哲学」という学問は、世界に絶望した男の人生を救えるのか?

まったく望むことなく、一生死ぬことのできない「ゾンビ」になってしまった青年ひろ。果たして、彼を救う哲学をゾンビ先生は持っているのだろうか?ゾンビ先生とエリ先生は、最後の授業として「ニーチェと永遠回帰」について話し出した……。書籍『(推定3000歳の)ゾンビの哲学に救われた僕(底辺)は、クソッタレな世界をもう一度、生きることにした。』より特別連載。2018「紀伊國屋じんぶん大賞」エントリー中!

ゾンビになってしまった青年ひろと泣き伏せるエリ先生

 かつて江戸を横切って西から東へ飲料水を運んでいた玉川上水は、現在は上水道としての役割は終えているが、緑の残るその水路沿いには遊具やベンチが設置され、「玉川上水緑道」として細長く都民の憩いの場となっている。
 ひろ宅からほど近い渋谷区笹塚にも上水跡はあり、急遽その緑道の広場で師弟たちは落ち合うことになった。

「ひろ! なんということじゃ!! まさか、ひろが転化してしまうとは……!」

「゙ア゙ウ〜〜ヒロ〜〜ゾンビニナダ〜〜!」

 タクシーを飛び降りたゾンビコンビは、ブランコに抱きつき涙をほとばしらせているひろに駆け寄った。

「ゾンビ先生っ!! ねえ、戻して!! 僕を人間に戻してよ!! 僕の心臓を動かしてっっ!!」

 ひろは師の姿に気づくと、必死の形相で掴みかかった。

「心臓、止まっちゃったんだよ!! 死んじゃったんだよ僕!!! イヤだ、ゾンビなんてイヤだよお!! 生き返らせてよ先生!! お願い!!」

 教え子に迫られ、しかしゾンビ先生はゆっくりと首を振った。

「残念じゃが……、死んだ者が生き返ることはできん。それが生きとし生けるものの定め。こうなってしまった以上、もうおまえはゾンビとして生きながらえて……死にながらえていくしかないのじゃ」

「なんでだ—っっ!!! イヤだよおおぉぉ〜〜あんまりだ〜〜〜っ!!!」

 ひろは砂場に突っ伏し、「イヤだイヤだよおおおおっ」と叫びながら両手を砂に叩きつけた。
 錯乱する新人ゾンビの隣では、エリが同様に力なく地べたに座り、しくしくと泣き伏している。

「ひぐっ……ごめんひろ……私のせいで……、ひっぐ……ひっ……ううう……ごめん……、ごめんなさいっ……私のせいでひろがゾンビに……えぐっ…………」

 その言葉に反応してひろはいきり立った。

「ごめんじゃないでしょおっ!!! 僕死んじゃったんだよ!? エリ先生のせいで死んだんだよ僕!? 人間じゃなくなったんだよ!!! 先生のせいで!!」

「ごめんなさいっっ!! ひっく……私はただ、ひろの怪我が早く治って欲しくて……。あれをやってあげたらモテない男子は喜ぶって、『an・an』に書いてあったんだもんっ……! ひっくっ」

「なにをそんな記事に踊らされて!! それは人間用の記事でしょうがっ!!! あなたはゾンビなんだよ!? ゾンビウィルス持ってるんだよ!! 傷口をしゃぶったらどうなるか想像できなかったの!? 傷さえなければいくらでもペロペロすればいいけどさ!!! ゾンビなんだから先生は!! 感染するでしょうがどう考えても!!!」

「ごめんなさあいぃ〜〜っ!」

「ごめんで済むかっ!! ただじゃ済まないからなっ。痛い目に遭ってもらうからな!! ほら、鞭を出して!! 仕返しさせてもらうよ! 今度は僕が叩く番だ!! ほら、寄こして鞭!!!」

「イヤっ!! やめてよおっ!!」

「イヤじゃない!! 今まで僕がイヤだと言っても耳を貸さなかったくせに!! 今日こそは叩かれる側の気持ちもわかってもらうからな!!! 痛いぞ〜〜怖いぞ〜〜〜い〜〜〜〜っひっひっひっひっ!!」

「いい加減にせんかっ!!!」 ガブリッ!!!

「ぼぎゃああっっ!!」

 バッグを奪い合う二人の間に割って入ったゾンビ先生が、ひろの首筋に思いっきり噛みついた。

「…………心配せい。本嚙みじゃ」

「本嚙みはやめてよっ!!! 首がえぐれるかと思ったもう!! ああっ、でも、全然痛くない……もう痛みも感じなくなっちゃったよお……辛いよおぉ……」

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ゾンビの哲学」に救われた僕は、クソッタレな世界をもう一度、生きることにした。

さくら剛

さくら剛の超・哲学入門! 「とっつきにくくて、わかりにくい」、「でも、人生の役には立ちそう」。本書は、そんなやっかいな哲学を「冴えない青年“ひろ”が、古代ギリシア生まれの哲学者“ゾンビ先生”から学んでいく物語」です。哲学とは? この世...もっと読む

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