エリ先生の哲学授業 第5回「幸せとはなにか」後編
エリ 平等? プラスマイナスゼロ? じゃあ聞くけど、あんたの人生と、大リーガーのデルビッシュの人生は、幸福の量も不幸の量も同じってこと? あんたもデルビッシュも、人生トータルの幸福量は同じだってこと?
ひろ いやそれは……なんというか……、い、いや! その可能性だってあると思うよ! 先生はデルビッシュの輝かしい部分しか知らないんじゃないの? そりゃあデルは知名度も稼ぎも途方もないけど、その分途方もなく辛い練習を乗り越えてきてるはずだよ。それなら、デルの人生だってプラスとマイナスがちゃんと釣り合ってるんだよ。だから僕とデルの人生の総幸福量が同じという可能性は十分にある! ていうかきっと同じだよ! 同じ!
エリ ふーん。じゃあ聞くけど、もしあんたがもう一度人生を最初から始められることになって、その時「ひろの人生」と「デルビッシュの人生」が選べるとしたら、どちらを選ぶかは五分五分だってことね? そこで強制的に「ひろの人生」にされても一向に構わないということね? どっちも同じ幸福量なんだから。
ひろ いやだあぁっ!! それはデルビッシュの人生がいい!! その二つの選択肢が五分五分なわけあるか!! 「ひろ」と「デルビッシュ」でひろを選択する人間がこの地球上に一人でもいようか!!
エリ あっそ。やっぱり違うと思ってるんじゃない。あんたとデルの、人生の幸福量。
ひろ ぐっ……。そ、それはですね、やっぱり僕らは、デルのプラスの部分しか知らないから……。だからデルが幸せに見えちゃうんだと思います。表に出ない苦労を考慮すれば、案外トータルではプラスマイナスゼロになってるのかもしれない! まだ捨てきれないですよこの説は!
エリ じゃあ質問を変えるわ。2000年前、若くしてゾンビになって火あぶりにされたヒエロは、そんな報いを受けるほど、それまでの人生が幸せだったってこと?
ひろ ………………。うげっ。
エリ 日本でも幼くして事故や虐待で命を落とす子どもはたくさんいるわね。その子たちは、わずか1歳や2歳で殺されても文句が言えないくらい、1年や2年の人生が幸福だったの? 生まれてからずっと虐待されていた子どもだっているのに。
ひろ ………………
エリ 原爆の犠牲になった20万人の人々は、全員がそこで命を落としても釣り合うくらい過去の人生がプラスだったの? ホロコーストで殺された600万人のユダヤ人たちは、全員が虫けらのように殺されるに値する罪を犯していたと言うの? 災害の犠牲になった人たちは? スラムに生まれて飢えている子どもは? 酷い犯罪に遭って一生消えない傷を負った人は? そんな人たちもみんな、トータルの幸福度はあんたと同じだって言うの?
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