名刺ゲーム

あいつの人生、崖っぷちじゃん。生きてて楽しいのかね。

家族も部下も切り捨て、人気クイズ番組のプロデューサーまで上り詰めた神田達也。ある夜、息子を人質にとられた神田は謎の男から「名刺ゲーム」への参加を命じられる。一体、男の狙いは何なのか? 何故自分がこんな目に合わねばならないのか? 神田はうだつのあがらなかった自身の過去を思い返していくのだが……。WOWOW土曜ドラマ化で話題の小説『名刺ゲーム』を集中連載!

2 神田達也

 やっとだよ。四十歳過ぎて、番組、やっと当たったんだよ。テレビ局の制作に来たの、三十歳の時でさ。入社してからそれまでずっと事業部でイベントやってたの。ずっと来たかった制作。だけど、三十過ぎてても最初はADから。局員だからって優しくされたりしないから。そっから五年頑張ってさ、やっとディレクター。

 だけど、ディレクターとして配属される番組、配属される番組、半年で終わっていった。俺のせいじゃないのに、俺のせいだ的空気出されたりもした、悪い意味で。たまんないよ。いや、もしかしたらいい意味でかもしんないけど。

 俺が撮らしてもらってた、芸人が体を張ってチャレンジする番組でゲームやったの。絶対ケガ人なんか出るはずのなかったゲームだよ。ザリガニに唇挟まれるってやつ、見たことあるでしょ? 伝統芸能の域だよ、あんなの。なのにさ、スタジオに来てた男性アイドルがさ、芸人のあとにチャレンジしたんだよ。ザリガニ、口でくわえて。そしたらさ、ザリガニの鋏がその日に限って鋭すぎて、上唇の横が二センチ裂けてさ。最初は頑張ってリアクションしてくれてんだと思ったよ。みんな笑ってたよ。だけど、そのアイドルが口元押さえて、指の隟間から真っ赤なインクみたいなのが大量に染み出てきてさ。本物の血って、一瞬血に見えないよね。血って噓みたいな赤色してるから、その噓臭さが赤いインクに見えたりして。でも、ケミカルな感じに見えた赤い液体を血だと認識した時、観覧客の笑い声が女性の悲鳴に変わったんだよね。そんなことある? ザリガニが本気で人の口挟んで、唇の横が裂けるほど切るってある?

 ザリガニに唇挟まれるリアクションチャレンジをやる場合、ザリガニの鋏を少し削って粗くしとく人もいるなんてこと、あとで聞いてさ。知らないもん、そんなの。ザリガニの爪がマジでそんなに鋭利な刃物だなんて知らないもん。

 結局、男性アイドル、二針。唇の横に傷がずっと残るとかでうちの局とでかい問題になってさ。番組こそ打ち切りにはならなかったけど、俺だけ番組、クビ。

 そこからよ。サゲチンなんて言われてさ、自分を受け入れてくれる番組もほとんどなかったな。会社員なのに仕事与えられないって、辛いよ。給料もらってることに罪悪感感じたりね。

 そんなこと言えなかったよ、由美には。由美とは、俺が事業部にいた時に出会ったんだ。先輩に誘われたCA合コン。当時はまだスチュワーデスって言えてた時代。俺、コンパとか苦手でさ。テレビ局の人間って合コン好きで派手に遊んでる奴が多いと思われがちだけどさ、そうじゃない種類の人間だっている。テレビ局のイメージって、燦々と明るい太陽みたいな。でも、陽の光が当たらない、日陰側の地味な人間だって沢山いるの。

 俺がまさにそう。大学時代からクイズが好きでクイズ研究会に入ってて、いつかテレビ局に行って、クイズ番組で当ててやるって野望はあったんだけどね。モテないけど、正直、テレビ局というステータス、その保険に食いついてくれる女性がいなくはないわけ。

 人生初のCAとの合コンで出会ったのが由美。由美が好きだったアーティストのチケットをコネを使いまくってゲットして、半年後には子供ができたって言われた。

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名刺ゲーム

鈴木おさむ

家族も部下も切り捨て、人気クイズ番組のプロデューサーまで上り詰めた神田達也。ある夜、息子を人質にとられた神田は謎の男から「名刺ゲーム」への参加を命じられる。だがそれは、人間の本性を剥きだしにしていく《狂気のゲーム》だった――。WOWO...もっと読む

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