秋葉原のメイドカフェで、なぜかエリ先生と出会った
緊張で強まった心臓の鼓動を感じると、ああ自分は生きているんだと、ひろは実感する。
秋葉原の雑居ビル。階段を3階分上ると、ハートマークが描かれたドアの前でひろは深呼吸をした。初めての店を開拓する時はいつもドキドキだ。
このメイドカフェ「えたぁなる@バースでぃ」は3ヶ月前にオープンした店舗であるが、ひろがネットサーチにより発見したのは昨日。オープンから少し遅れてしまったが、まあ自分が認識していなかった限りこのカフェは存在していなかったとも言えるので、ともかく新しいメイドカフェは訪問するのがひろの流儀。このフットワークの軽さはバイト先のしゃぶしゃぶ店のメンバー中でも一番か二番か三番であるとひろは自負している。 ひと息にドアを開け、店内へ踏み込む。メイドカフェの王道、ピンク色を基調にしたメルヘンな内装が目に飛び込んでくる。ドアに据えつけられたベルの音に反応し、一人のメイドがお迎えにきた。ウエストが絞られたエンジ色の制服。控えた方がいいとわかっていても、ひろは腰から上下にボディラインを辿って視線を這わせることを止められなかった。
「やっと帰ってきたの? もう、遅いんだからっ! 今日は一人なの?」
ん? ちょっと想像と違うつっけんどんなお迎えだな。まあその胸の膨らみに免じて許してやるけども。それにしてもモデルみたいな体型だなこの子……麗しい……ひろ評価86点はいくよこれ? 半年に一回の高得点だよ? あとは顔次第だけどどうだい?
「うん、一人だよ!」と答えながらバストに留まっていた視線の標高を上げてみると、そのメイドはあらびっくり、見知ったゾンビ、エリであった。
「エリ先生っっ!!! ええっちょっと!!! いやだっっ!!!」
「うゲッッッ!!! ヒエロ!! じゃないひろ!! な、なによ!! ふざけてんじゃないわよ!! なんなのよあんたは!!」
「なんなのよって客だよ!!! え、ちょっとなにやってるんですかエリ先生!! メイドやってるの!? どう見てもメイドにしか見えないけど!!」
「どう見てもメイドに見えるんならメイドでしょうがっ!! わかりきったこと聞かないでよ!!」
「す、すいませんっ。にしても、なぜエリ先生がメイドカフェのメイドを……。まあいいけど、とりあえず席に案内してくださいよ。ご主人様が帰ってきたんですからね!」
「くっ……、奇遇だわね、こんなところで会うなんて……。じゃあ入って。こっちよ」
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