痴漢は冤罪と認められたけれど……

【第3回】
女子高生に通勤電車で痴漢と間違えられた。
冤罪と認められて釈放されたけれど、さまざまな物を失ってしまった――。
小説すばる新人賞作家・行成薫が描く、先読み不能の「超能力」エンターテインメント!

 金田の痴漢疑惑は、なんともあっけない結末を迎えた。連行される直前、金田と同じ電車に乗っていた女性が、金田の両手は吊革とカバンで確実にふさがっており、間違いなく潔白である、と証言してくれたのだ。女性は、急いでいたために一度は無視したが、冤罪で引っ張られていく金田の姿が頭から離れず、わざわざ引き返してきてくれたのだという。

 ちょうど、駅構内でボヤ騒ぎが起こったこともあり、金田は「帰っていいよ」の一言で、乱暴に釈放された。釈放されたはいいが、すでに会議は始まってしまっている。もはやタクシーを飛ばしても間に合う時間ではない。遅れていくこともできず、誰かに引き継ぐこともできず、完全にお手上げだ。

 出勤して、痴漢冤罪で遅れたと報告したら、どうなるだろう。対応に追われた部内の全員から白い目で見られる中、まず上司から、気を抜いたお前が悪い、と言われる。それを、「毛の抜けたお前が悪い」と聞き間違えて、意気消沈する。後ろからは、あいつ冤罪じゃないんじゃない? というひそひそ声が聞こえてくる。自席に戻ると、後輩の伊藤が、「どうすか、カワイイ子の尻触れましたか」などと、完全にラインを踏み越した冗談を飛ばしてくる。金田が睨みつけると、冗談っすよ、とはぐらかしながら、ニヤニヤ笑う。

 単なる妄想だが、あまりのリアルさに、金田は出社する気力を完全に失った。妄想とはいえ、ほぼ現実に起こりうることだ。

 自分の人生は、いつから変わってしまったのだろう。金田はベンチに座り、天を仰いだ。入社当初は上司に気に入られて、期待の新人と持ち上げられたものだ。あの頃は自分に自信もあったし、彼女もいた。仕事もバリバリこなしていた。

 空気が大きく変わったのは、入社三年目だ。

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