亜也華ちゃんからの長い手紙は、まだまだ続いた

抗がん剤治療を、通院での治療に切り替えた小森谷くん。退院した彼は、親友の土岸と共に京都の家を引き払いにいった。1か月半ぶりに訪れた部屋のポストには、亜也華ちゃんからのエアメールが届いており……。
末期がんを宣告された男性の❝ありそうでなかった❞半生を描いた、『小森谷くんが決めたこと』を特別掲載!

 退院後の週末、一人暮らしの部屋を引き払うため、京都に行くことにした。

 土岸が車を出してくれ、二人は京都に向かって車を走らせた。

「また向こうに住もうと思ってたんだけど……」

「しょうがねえよ。復帰したら、また新しい部屋を借りればいいだろ」

 どうにか京都に戻ってまた住もう、と思っていたので、彼はちょっと落ち込み気味だった。

 だけど今の状態では、いたしかたがないことだ。

 京都まで片道四六〇キロ、時間にすると六時間くらい、土岸はずっと運転をしてくれた。

 京都の部屋に着くと、ポストに亜也華ちゃんからのエアメールが届いていた。

 ドアを開けて電気をつけると、薄暗い部屋が浮かび上がる。

「お前、ブレーカーくらい落としていけよ」

「あ、そうか。忘れてた」

 一ヶ月半ぶりに見る部屋は以前のままだったが、見るからに人が住んでいないという感じで、寒々しかった。

 壁際にアイロンが置かれているけれど、こうして見ると意味がわからない。

「さっさと片付けるか」

 土岸が率先して片付けを始めた。

 少ない荷物をトランクに積み込み、ゴミを出して、カーテンを外す。

 部屋はあっという間に、布団だけを残した直方体の空間に変わる。

 翌日、不動産屋に鍵を返し、また東京にとんぼ帰りした。

「ありがとな、土岸」

「おお。他にも行きたいところがあったらいつでも言えよ。ただし飯はおごれよ」

 土岸は帰りも六時間くらい、ずっと運転をしてくれた。

 土岸が大病をしたら、自分も何でもしてやろう、と思ったが、そんなことにはならない気がした。

 返せない借りや、返せない恩というものが、この世にはあるのかもしれない。

 日野に着くと、疲れてしまってすぐに寝た。

 動くとすぐに息が切れるし、ずいぶん体力が落ちてしまった。

 翌日、彼は亜也華ちゃんからのエアメールを開いた。それはいつになく長い手紙で、写真も何枚か入っていた。

“こんにちは。モリくん。元気にやってますか?

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
余命2か月といわれた男—小森谷くんが決めたこと

中村航

僕、余命2ヶ月って言われたんですよ。でも、生き残っちゃいましたけど――。末期がんを宣告された30代男性の“ありそうでなかった”半生を、「100回泣くこと」の著者・中村航が小説化!

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Tweetがありません