赤ん坊の心臓を一生使う
さて、話を心臓にもどしましょう。
心臓のポンプ作用は、心筋という特殊な筋肉によって行われます。
人間の筋肉は、大きく分けて「横紋筋」と「平滑筋」があり、横紋筋は骨についていて、自分の意思で動かせるので、「骨格筋」「随意筋」ともよばれます。平滑筋は胃や腸を動かす筋肉で、思い通りに動かないので、「内臓筋」「不随意筋」ともよばれます。それぞれの働きに応じて、横紋筋には瞬発力と強い収縮力があり、平滑筋には持続力があります。
心筋は、この両者の特徴を兼ね備えたハイブリッド筋肉ともいうべきものです。組織学的には横紋筋ですが、思い通りに動かないから不随意筋で、力強い拍動を行うので収縮力と瞬発力があります。しかも、一生動き続けなければならないので、持続力もあるというわけです。
この優れモノの心筋細胞は、しかしほかの筋肉とちがって、生後すぐに増殖能力を失ってしまいます。つまり我々は、赤ん坊のときの心筋細胞を、そのまま使っているのです。成長するに従って心臓が大きくなるのは、一つずつの心筋細胞が肥大することによっています。
心臓が大きくなるといえば、「スポーツ心臓」と「心拡大」がありますが、この両者はまるでちがいます。胸のレントゲン写真で見れば、どちらも心臓の影が大きく写りますが、スポーツ心臓は、強い拍動をするために心筋が分厚くなっているのに対し、高齢者に多い心拡大は、心筋が伸びたゴムのようにぺらぺらになっているので、強い拍動ができません。それがいわゆる「心不全」で、動どう悸き 、息切れ、むくみなどの原因となります。
心臓の拍動(「脈拍」)をコントロールしているのは、右心房にある「洞結節」というところです。ここから発せられた電気刺激が、心房と心室の間にある「房室結節」を介して、左右の心室に伝えられ、心筋が一斉に収縮するのです。
心電図では、最初に現れる小さな波(P波)が洞結節の興奮を表し、そこから0・2秒以内に心室の収縮を表す大きな波(QRS波)が出ます。
電気刺激が伝わりにくくなって、P波とQRS波の間隔が延びると、「房室ブロック」という状態になります。程度によって第1度~第3度に分かれますが、第3度の「完全房室ブロック」になると、電気刺激がまったく心筋に伝わらず、心筋は自分のリズムで勝手に動きだします。
この房室ブロックや、「洞不全症候群」(洞結節がうまく働かない)などで、十分な脈拍が得られなくなると、「ペースメーカー」という機械を入れなければならなくなります。これはストップウォッチほどの大きさで、鎖骨の下あたりの皮下に埋め込み、血管を通じて、電極カテーテル(ワイヤー)を心筋に固定します。
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