目を落としたスケジュール帳には、先々の予定が書き込まれていた。だけど病気が治るまでは、きっと何もできないのだろう。
夢や目標は、一旦リセット、ということになるのだろう。
映画『硫黄島からの手紙』が、年をまたいでロングランを続けていた。手塚治虫原作『どろろ』が、先週公開された。
Show must go on──. 彼がいてもいなくても、ロードショウは続く。
西日の射し込む部屋で、彼は深く呼吸をした。
吸って吐く、それだけなのに、ため息をついた気分になってしまう。
どっちなんだろう……。自分の明日は一体、どっちなんだろう……。
「もしもし、母さん?」
病気のことを伝えると、母親にも絶句されてしまった。
「大丈夫なの? 早く戻ってきなさい」
「大丈夫だよ。治るから」
心配する母親に、何度も“大丈夫だよ”を繰り返す。
「明日、東京に戻って、その足で病院に行くから」
「そう……気をつけてね」
「うん、わかった」
電話を切った彼は、部屋の隅にあるアイロンを見つめた。ずっと心配ばかりかけてきた母親に、また心配をかけている。
じっとしていられなくなった彼は、コンビニに弁当を買いに行った。
今さらながら健康のことを考えて、雑穀米の入った弁当を買う。映画雑誌をぱらぱらとめくったけれど、内容は少しも入ってこない。
「もしもし。今、大丈夫か?」
「ああ、何だよ」
来た道を戻りながら、土岸に電話をした。
誰かに伝えるのが三回目だからか、それとも相手が土岸だからか、病状を伝える自分の声が、やけに落ち着いていた。
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