すでに末期。何も治療せずにいると余命は2か月

がんの宣告を受けた小森谷くんは、母親と土岸に連絡をする。入院し、治療するために京都から東京へ戻った彼に医者が告げたのは、治療しなければ余命2か月という、残酷な事実だった。
末期がんを宣告された男性の❝ありそうでなかった❞半生を描いた、『小森谷くんが決めたこと』を特別掲載!

 目を落としたスケジュール帳には、先々の予定が書き込まれていた。だけど病気が治るまでは、きっと何もできないのだろう。

 夢や目標は、一旦リセット、ということになるのだろう。

 映画『硫黄島からの手紙』が、年をまたいでロングランを続けていた。手塚治虫原作『どろろ』が、先週公開された。

 Show must go on──. 彼がいてもいなくても、ロードショウは続く。

 西日の射し込む部屋で、彼は深く呼吸をした。

 吸って吐く、それだけなのに、ため息をついた気分になってしまう。

 どっちなんだろう……。自分の明日は一体、どっちなんだろう……。

「もしもし、母さん?」

 病気のことを伝えると、母親にも絶句されてしまった。

「大丈夫なの? 早く戻ってきなさい」

「大丈夫だよ。治るから」

 心配する母親に、何度も“大丈夫だよ”を繰り返す。

「明日、東京に戻って、その足で病院に行くから」

「そう……気をつけてね」

「うん、わかった」

 電話を切った彼は、部屋の隅にあるアイロンを見つめた。ずっと心配ばかりかけてきた母親に、また心配をかけている。

 じっとしていられなくなった彼は、コンビニに弁当を買いに行った。

 今さらながら健康のことを考えて、雑穀米の入った弁当を買う。映画雑誌をぱらぱらとめくったけれど、内容は少しも入ってこない。

「もしもし。今、大丈夫か?」

「ああ、何だよ」

 来た道を戻りながら、土岸に電話をした。

 誰かに伝えるのが三回目だからか、それとも相手が土岸だからか、病状を伝える自分の声が、やけに落ち着いていた。

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余命2か月といわれた男—小森谷くんが決めたこと

中村航

僕、余命2ヶ月って言われたんですよ。でも、生き残っちゃいましたけど――。末期がんを宣告された30代男性の“ありそうでなかった”半生を、「100回泣くこと」の著者・中村航が小説化!

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コメント

marekingu #スマートニュース 3年弱前 replyretweetfavorite

from_mikankan 過去に末期がんを宣告され、少し前に悪性リンパ腫疑いで通院した身としてはこういう記事に過剰反応してしまう【 3年弱前 replyretweetfavorite