洞窟ばか

なぜ洞窟を探検するのか

ロープ1本で400メートルの縦穴(東京タワーがすっぽり入る)を下りる恐怖や最長では11日に及ぶという洞窟内での過ごし方(排泄物は持ち帰る!)、ベトナムで見つけた火山洞窟があとから大発見だと判明したりなど、洞窟探検譚はもちろん、洞窟内で遺体を発見した仰天エピソードから、真剣に取り組む洞窟ガイド育成まで、「洞窟のおかげで人生が豊かになった」という吉田さんが、洞窟と出会うまでの紆余曲折。

なぜ洞窟を探検するのか?

自分が洞窟探検をしているという話をすると、10人中8~9人ぐらいはこう尋ねてくる。
「どうして洞窟探検なんてやっているんですか?」
「洞窟探検の何が楽しいんですか?」

いい加減、聞かれ飽きたが、そんな疑問を抱く気持ちもわからなくはない。なぜなら、彼らは洞窟を探検したことがないからだ。きっと今、この文章を読んでいる読者も、同じような疑問を抱いているのではないだろうか。だから、まずはその疑問に答えたい。
なぜオレは洞窟を探検し続けるのか?
―その答えは単純だ。洞窟には正真正銘の「未知」があり、その未知なる世界に「行ってみたい」「見てみたい」と猛烈に思うし、いざ未知の空間に到達できれば、途方もない「感動」を味わえる。腹の底から「ドキドキ」「ワクワク」できるからだ。

山登りと比較をするとわかりやすいかもしれない。
麓からカッコいい山を見上げて、「あの山に登ってみたい」と憧れを抱き、実際に頂上に立てれば、たしかに嬉しいし、達成感も味わえる。頂上からの展望に感動するかもしれない。
でも、そこに「未知」の要素はあまりない。
そもそも麓から頂上が見えているし、頂上に至る登山道がすでに整備されているかもしれない(あえて登山道を外すという登り方もあるが、それも「登山道がある」という既知の事実が前提となる)。

かたや未踏の洞窟は、どこに入口があるかもわからないし、運よく入口を見つけることができたとしても、その奥がどうなっているのか―どんな地形なのか、どれほどの深さなのか、水があるのか、巨大なホールがあるのか、ひたすら狭い通路が続くのか―何ひとつわからない。

人間の側がどれだけ想像を巡らせても、その想像通りになっていることは、まずありえない。巨大な入口で「これはすごい洞窟かもしれない」と期待を寄せても数メートルで行き止まりかもしれないし、「大した洞窟じゃないだろうな……」と期待せずに入ってみたら、延々と奥まで続いていく巨大洞窟だったということもある。

洞窟の奥に何があるのかはまったく予想ができず、絶対的な未知が広がっているのだ。そして、未知を既知に変える方法はただひとつ。自分が入口から洞窟内へ潜り込み、探検するしかない。

世の中には「わからないもの」「想像ができないもの」「見えないもの」に対して、恐怖や不安を感じる人が大勢いる。でも、オレはその逆で、未知なるものに対してドキドキワクワクを感じるし、わからなかったことがわかるようになったり、見えなかったものが見えるようになった瞬間、ハンパなく感動もするし、興奮もする。
知らない場所に行ってみたい。知らない場所を見てみたい。
これがオレのいちばん根っこにある欲求だ。

また、洞窟探検には、スポーツ的な要素だけでなく、古気候学、水文学、地質学、地理学、生物学、古生物学、考古学、人類学など多種多様な学問との関わりがあり、それも洞窟の面白さのひとつだ。
「吉田さんはなんでそんなに洞窟が好きなんですか?」と聞かれることがある。
そんなとき、「うーん、実はオレ、洞窟はあまり好きじゃないんだよ」と答えたりして、「は?」と言われたりするのだが、この答えはまんざら嘘でもない。
実際、オレは「洞窟が好き」というより、「未知なる場所の探検が好き」なのだ。
未知の探検ということで宇宙や月にも興味があり、2回ぐらいNASAに「調査に協力させてほしい」とメールをしたこともある。まあ、そのメールは完全スルーされてしまったのだが。宇宙がダメなら、この地球上で未知なる場所を見つけるしかなく、そうなると選択肢はわれわれの足下に広がっている洞窟ぐらいしかなくなってしまう。

つまり、未知の場所への欲望がまずありきで、その欲望を実現できる場所が洞窟なのである。洞窟は、「究極の旅」のひとつというわけだ。

いきなり冬山で登山デビュー 

洞窟は「未知の場所を探検したい」というオレの欲求を実現してくれる場所であり、今のオレにとって洞窟探検と人生はほぼイコールである。
ただ、そんな洞窟探検と出会うまでには紆余曲折があった。
話は10代のころまでさかのぼる。
子どものころから有り余るエネルギーを持て余してケンカばかりしていたオレは、何とか高校に進学するも、「やっぱつまんねぇ」と半年で退学。しばらくはフラフラしていたのだが、19歳ぐらいのときに「このままじゃいかん!」と向上心にメラメラと火がついて、当時通っていた少林寺拳法道場の先輩に誘われて、スーパーの食品売り場で巻き寿司を売る仕事をはじめた。
それまで商売なんて一度もやったことがなかったので、その寿司販売の仕事は上手くいかずに数カ月で辞めてしまったのだが、辞めた直後に知り合いに紹介されて、今度は150席ぐらいある飲み屋を任されることになった。
その店でもはちゃめちゃな出来事があったのだが、飲み屋の仕事は水が合ったのか、個人的にはすごく楽しめて、いつしか「自分の店を持ちたい」と思うようになっていた。

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洞窟ばか

吉田 勝次
扶桑社
2017-01-08

この連載について

初回を読む
洞窟ばか

吉田勝次

『クレイジージャーニー』『情熱大陸』などテレビで話題沸騰の洞窟探検家・吉田勝次。国内外で挑んできた洞窟は1000を超える。「なぜ洞窟か?」と聞かれれば、「そこに未知の世界があるから」。 17㎝の隙間があれば身体を押し込み、泥にまみれ、...もっと読む

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コメント

kincsem629 2016年の下半期からちょうどこの本「#洞窟ばか 」が発売になった17年初頭にかけて、「ライター・編集者として今なにに関心がある?」という質問に対して、ぼくはまさに「洞窟」と答えていたのだった。なぜその時この本と出会わなかったのか https://t.co/yYQ20Gs3AS 約3年前 replyretweetfavorite

sadaaki 洞窟いきたい。この連載おもろいです。 約3年前 replyretweetfavorite