恋人と別れたあの日から〈前篇〉

連載当初は「私は私自身の愛を磨くのだ」と高らかに宣言していた臆病な詩人の文月悠光さん。実は、「恋愛音痴の受難」で出会った人と、お付き合いしたそうです。けれど、いまだに恋愛音痴は続いているようで――。きらきらした恋に憧れているのに、頑なに動かない自分の心に、文月さんが向かい合います。

 この連載が本になるらしい。ありがたいことに、4社から書籍化のお話を頂き、それぞれの出版社の方とお会いした。しかし、おもしろいと言ってくれる箇所はみんなバラバラだ。
 軽快な話を好む人、シリアスなエピソードが良いという人、中には、「人を殴る話ってどうですか?」「ヤクザの事務所に直談判しに行くエピソードが読みたいです」という人も。もはや、臆病とかそういう範疇を超えている。

「そういえば、初回で話していた〈合コン〉の企画ってどうなったんですか?」という質問に「それは……」と言葉を濁す私。
 人生初の合コンは、結局行われることがなかった。
 なぜなら私には、恋人がいたからだ。

 話が違う? いや、安心して欲しい。もう別れたのだ。

 情けないことに、交際は1年も続かなかった。恋愛音痴ぶりがさらに露呈するエピソードなので、できたら「書くのは避けたいな……いっそなかったことに……」と思っていた話題である。
 ところがここにきて、担当編集者のN氏に「〈恋愛音痴〉のあの話、そろそろどうですか? 連載も大詰めですし、書いてみませんか?」と尋ねられた。

 そう、私は「恋愛音痴の受難」の登場人物の一人と、その後お付き合いをするのであった(くどいが、もう別れている)。

恋愛ごときで変わってなるものか

 N氏の思わぬ提案に、私は正直戸惑った。

「もう別れてますし、書いてもひたすら残念な話になっちゃいますよ」
「えっと、『恋愛音痴の受難』の終わり読みます。〈自分の中に潜む「誰かを愛したい」という欲望を思った。私は私自身の愛を磨くのだ〉。キリッ」
「……」
「続いて、第2回『失敗だらけの初詣』の終わり。〈そういえば神さま、あともう一つだけ。まっすぐな恋が見つかりますように〉。キリッ」
「うっ、やめてください……。『キリッ』は余計です……」

 私は私自身の愛を磨く? そんなことを私は書いたのか(困惑)、書いてしまったようだ(脱力)。
 原稿の中で力強く宣言した私だったが、現実はそうたやすくはなかった。

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臆病な詩人、街へ出る。

文月悠光

〈16歳で現代詩手帖賞を受賞〉〈高校3年で中原中也賞最年少受賞〉〈丸山豊記念現代詩賞を最年少受賞〉。かつて早熟の天才と騒がれた詩人・文月悠光さん。あの華やかな栄冠の日々から、早8年の月日が過ぎました。東京の大学に進学したものの、就職活...もっと読む

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コメント

luna_yumi エッセイ〈前篇〉をまだ読んでないよ、なんだっけ?って方はこちらから読めます🍨🌠 ▶︎|文月悠光 https://t.co/2lMqBEbCOA 16日前 replyretweetfavorite

luna_yumi 【お知らせ】エッセイ前篇の無料公開は、明日10/29(日)朝10:15まで🌠 未読の方はぜひ今夜開いてみてください。後篇は11/2(木)更新予定です🙏 cakes会員の方は期間後も全文読めます◎ ▶︎ https://t.co/2lMqBEbCOA 21日前 replyretweetfavorite

tipi012011 何だか物凄く可愛い!と思えてしまうのは私だけか? 22日前 replyretweetfavorite

luna_yumi 〈私が何より怖いのは、世間の目であり、他人の目に評価されること。ただ多くの場合「他人の目」は、私自身の目なのだろう。…私を監視する自分の目からは逃れられない。自意識はどこまでも私の邪魔をする。〉 ▶︎ https://t.co/2lMqBDU1X2 23日前 replyretweetfavorite