思い切って打てない日本人
今回は『決定力』をテーマにしたい。
ヨルダン戦の日本代表は、香川や前田遼一らが数多くの決定機を外し、そのほかにもシュートで終わることができない拙攻が目立ったことで…、
「決めろよ!」「あ~もう! 日本は決定力がない!」
と叫んだ人も多かったのではないだろうか。
ビッグチャンスを決められなかったこと。これはもうしょうがない。
ヨルダン戦のすぐ後に行われたブラジルワールドカップ欧州予選のフランス対スペインでは、前半5分に名手シャビが、ゴールまでわずか5メートルの距離からフリーで打ったシュートを外した。「シャビが外したんだから、日本も外していい」と言いたいわけではないが、サッカーはそういう“まさか”が起こり得る偶然性の高いスポーツだ。だから、しょうがない。そのときの運と、選手の集中力に任せるしかない。
ただし、決めるか決めないかではなく、シュートが打てそうな場面で打たず、まごついているうちにシュートを打ち切れずに終わってしまうような消化不良感については話が別だ。この試合に限らず、「もっとシュートを打てよ!」と思っている人は多いかもしれない。
なぜ、日本の選手は思い切ってシュートを打たないのか?
ヨルダン戦のゲスト解説の中山雅史さんはその理由について、「確実に、確実に、やろうとしすぎていると思いますね」と述べた。打てば何かが起こるかもしれないが、確実にやろうとするので打たない。それも一つの理由かもしれない。
なぜなのか?選手にも分からない
もう一つ僕が指摘したいのは、ゴール前というエリアの特性だ。
ゴール前は時間の限られた場所になる。相手選手を11人全員かわすほどの余裕を作ったのなら話は別だが、そうではない場合は相手の守備人数が多いので、もたもたしているとあっという間にタックルを食らったり、シュートコースを消されてしまう。チャンスから1秒経てばノーチャンス。ゆっくり考えたり迷ったりする余裕がないので、判断が良いとか悪いとかを考える前に、瞬間的にサッと開き直ってプレーすることも必要になる。ゴール前は中盤とは違う。それが大前提だ。
2009年に日本代表(当時は岡田ジャパン)がオランダに遠征したとき、押し込みながらも日本代表の選手がシュートを打たないことに疑問を感じ、僕はミックスゾーンで中村憲剛選手に質問したことがある。「なぜ打たないのか?」 彼の答えは素直で、かつ非常に面白かった。
「なぜなんでしょうね? 打つべきなのは自分でもよく分かっています。ただ、シュートを打てる場所に行っても、なぜか、とっさにパスを選んでしまう。なぜなのか、自分でもよく分からないんだけど…」
結局、プレッシャーのかかる極限の場面では、人間は今までに自分が積み重ねてきたことしかできないのだと思う。サッカーというスポーツに関して、無意識のうちにパスが心の拠り所になっていたのなら、やっぱりとっさの場面ではパスを選んでしまうだろうし、あるいはそれがドリブルになる選手もいるかもしれない。ゴール前というエリアは状況判断というより、脊髄反射でプレーするイメージが強くなる。
日本人の「すみません」のようなもの
「なんでもかんでも、“すみません!”で済ますな!」
「はい、すみません! あっ…」
“ダメだ”と頭では分かっていても、理屈で考えたことは、プレッシャーのきつい状況ではなかなか通用しない。最終的には体に刻み込んだ日ごろのプレー習慣が優先されるので、簡単に変わることは難しい。
これは少年時代からどのような練習を積み上げてきたのかにも左右されるだろう。シュートを決めることに大きな喜びを感じながらサッカーを続けてきたのなら、迷わず打とうとするはずだ。しかし、シュートを打たないということは、ミスを恐れながらサッカーをしてきたのか、パス自体に喜びを感じていたのか、ドリブル自体に喜びを感じていたのか、いずれにせよゴール中心のサッカーではなかったのかもしれない。
香川も少し似ている。ドルトムントに所属していた11-12シーズンの公式戦では全17ゴールを挙げたが、そのすべてがペナルティーエリア内からのシュートだった。しかも強引に打つようなフィニッシュではなく、相手を崩して流し込むようなパターンがほとんどだ。香川の体に刻み込まれたシュートの成功イメージがそうなっているのだから、いきなり外野が「シュート!まずは遠目からでもシュート!」と言っても感覚的な部分には届かないだろう。やっぱり過去に成功したように、まずは相手をかわして、完璧な状況からシュートを打つように体が勝手に反応しても無理は無い。
端から見ていると、「なんでシュートを打たないんだ!」と思われるのだが、これはなかなか根が深い問題だと僕は思っている。シュート意識は一朝一夕ではなく、徐々に体の習慣を変えていくしかないだろう。
ただし、香川に関してはマンチェスター・ユナイテッドでも鬼軍曹のファーガソンから同じことを繰り返し注意されているので、案外早く解決するような気もしなくもない。密度の濃い経験を重ねていく香川の変化が楽しみだ。
得点シーンと、拙攻シーンでは何が違ったのか?
決定力を高めるためにはもう一つのアプローチが考えられる。
それはチャンスメークの質を上げること。
ヨルダン戦では攻めても攻めても、なかなか決まらなかった1点が、後半24分にようやく決まった。それはこんなシーンだった。
長谷部からのパスを清武弘嗣がワンタッチで浮かせ、ボールはハーフナー・マイクの頭上を超えてディフェンスラインの裏へぽとり。ここに香川が走り込んでダイレクトシュートを叩き込んで1点を返した。
試合後、清武はこのラストパスについて、「あの場面は芝も悪かったし、何か起こってくれ、という感じでアウトサイドに単純に当てて出したら、ああいう感じになったのでよかった」と語っている。100パーセント狙ったアシスト、というわけではなかったようだ。
一方、後半5分に香川がシュートを打ち切れなかった拙攻のシーンはこんな様子だった。
長谷部の浮き球のパスに反応して飛び出した岡崎慎司がワンタッチで内田篤人へ落とし、ここで内田は少し判断に迷った後、香川へのマイナス方向のパスを選択。
ところが香川はシュートを打たず、何度もボールを左右に切り返しているうちに相手に囲まれてボールを奪われてしまった。
得点シーンと、拙攻シーンでは何が違ったのか?
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