田中さんとは結構共演が多いんですよ、アタシが望んでるワケじゃないのに何かと縁がある。アタシらにとっちゃ東宝のドル箱、植木等のオヤジの映画『無責任』シリーズのライバル、加山雄三『若大将』シリーズの「青大将」なんだよね。ツッパってどこか憎めない、愛されるキャラクターなんだよね。
倉本聰さん脚本のドラマ『北の国から』も邦衛さんと共演だった。倉本さんの作品って必ず顔合わせで、監督からスタッフまで全員で本読みするの。
「セリフはリングなんですよ、リング」
倉本さんの確固たる理論でセリフの繫がりとみんなの和を大事にする、そんな本読みの日にね、邦衛さんは京都の太秦でヤクザ映画の撮影の帰り、肩で風切ってセリフ合わせですよ。読み終わってから倉本さんぼそっと、「邦衛さん、セリフの時、東映映画になるのやめてもらえませんか?」とひと言。
「あ!」
素に返る邦衛さん、唇がおかしかったなあ。熱中しちゃうんだよね、役に入っちゃうというかよくも悪くも周りが見えなくなっちゃう。
『居酒屋兆治』の時も、デカい声で本番前になりきって唇とんがらかして稽古を始めるから、アタシらうるさくってかなわない。スタジオセットは寒いから〝ガンガン〟っていう一斗缶に炭を入れた暖炉でみんなが温まってたら、そこでも大声で始めちゃう。「もう少し静かにやりませんか?皆さんいらっしゃるんですから」って小さい声で言っちゃったんですよ。そしたらさ、とがった唇さらにとんがらかしてさ、
「なんだあコマツ、ずいぶんエラくなったもんだなあ!」
肉屋の大将の役だから勢いがいい。で、本番で一発OKのイイ芝居。コレにはアタシもうなってねえ、「いやあ邦衛さん、イイ芝居でしたよ〜、先ほどは出すぎたマネして失礼しましたっ!」って素直に言ったんですヨ。そしたらさ、
「うるせえんだよぉ、おまえが余計なこと言わなきゃよぉ、もっとよかったんだよぉ!」
まだ役が残ってるのか威勢がいい。コレにはアタシもあんまり大声なんで、まいっちゃいましてねえ、「アタシのせいですか?わかりました......皆さんの迷惑になるんで、ちょっと表で話しましょうか」
そしたらさ、邦衛さんハッて我に返って、「あ、コマツくんそんなにコーフンしないで。怒っちゃやーよ、怒っちゃやーよ、でしょ」。冷や汗たらしてあの顔で言うもんだから、アタシも笑っちゃって、お話にもならなかった。
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