結婚前(後)に夫婦の真髄を知りたいあなたへ
16/50『死の棘』島尾敏雄
(新潮社)初出1977
結婚という夢物語 VS 夫婦愛というサスペンス
元祖メンヘラ女性小説。620ページ、妻がひたすら病んでいる夫婦文学でございます。結婚に夢を持っている人は、読んではいけない。#私小説 #夫婦を描く #元祖「妻がメンヘラになってしまった……」小説 #夫婦というものを見つめ直したい人に #壊れた家族 #凄絶な人間記録 #ど独身男性は読まないようにね!! #結婚に夢を持ってる女の子も読んじゃダメですよ!!
日本的メンヘラ女性の系譜、というのがあります。
「メンヘラ(精神を病んでいる人のこと)」という現代若者言葉を使うと語弊があるかもしれませんが、「病んだ女性」が日本文学には一定層存在しています。彼女たちはなぜか時をかけ、日本文学に繰り返し登場している。
たとえば『源氏物語』の六条御息所。嫉妬を抑圧したばっかりに生霊にまでなってしまった元祖日本メンヘラ女性。現代だったら、綿矢りさや本谷有希子の小説の主人公。今なお確実にこの系譜が受け継がれていますね。たいしたタイムワープ力です。
この日本的メンヘラ女性の特徴は、ずばり「じわじわと言葉をまくしたてる」こと。これ、なぜか外国の小説には見当たらないのですよ!
紹介する『死の棘』も、この日本的メンヘラ女性系譜の受け継がれる女性が登場します。
それは、主人公の妻・ミホなのです。
「じゃ、どうしてあなたはあんなことをしたんでしょう。ほんとに好きならあんなことをするはずがない。あなた、ごまかさなくてもいいのよ。きらいなんでしょ。きらいならきらいだと言ってくださいな。きらいだっていんですよ。それはあなたの自由ですもの。きらいにきまっているわ。あなたね、ほんとのことを、あたしに言ってちょうだい。このことだけじゃないんでしょ。もっともっとあるんでしょ。いったいなんにんの女と交渉があったの? お茶や映画だけだと言っても、それはおんなじなんですからね」
……読んでいるこちらがお腹いっぱいになるくらいの台詞。長い。長いよ。どんだけまくしたてるんだよ!
しかしこの台詞の間、主人公(夫)は何も言葉を発しません。
そう、日本の病んだ女性が小説に描かれるとき—彼女たちメンヘラの相手をするのは、ぬるい優しさを持つ日本男性たちなんですね。
だからこそ彼女たちは言葉をまくしたてられるだけまくしたて、その言葉に男は口を挟まずに沈黙するのです……。
「夫婦」の姿がどんどんサイコスリラーの体をなしてくる、ものすごい小説
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