金閣寺』よりも先に読んでほしい、三島由紀夫のSF小説

京大院生の書店スタッフが「正直、これ読んだら人生狂っちゃうよね」と思う名著を選んでみた。15作目は、三島由紀夫の『美しい星』。他人がちょっと引いちゃうような、三島由紀夫の「人間や世界や美しさへの憎悪と賛歌」を壮大なメタファーを用いて紡いだ小説。【重版出来しました】『人生を狂わす名著50』より特別連載。作家、有川浩も推薦! →公開は毎週木・金です。

本気の美しさを見たいあなたへ

『美しい星』三島由紀夫
(新潮社)初出1962

美は善 VS 美は呪い

日本史上もっともロマンチストだった作家・三島由紀夫による究極の人間賛歌。#SF小説 #自分たちはほかの天体から飛来した宇宙人であると思い始めた一家のお話 #思想小説 #2017年に映画化(亀梨くんがいい役してた) #文章も美しい #現実から離れたいときに読みたい一冊


 美は呪いだ。
 人間は美しさに殺されるし、同時に、美しさをよすがに生きている。
—そんなことを本気で信じていたのが、三島由紀夫って人だったんだなぁ。『美しい星』を読むと、しみじみ思う。
 そのとおり三島由紀夫は美しさによって死んでいったし、美しすぎる地球や美しくない現実に呪われて、そしてその美しい死はたくさんの人に呪いをかけていった。彼の本気の美しさへの追求たるや。一小市民としてほぇーと唸る。
 私は、三島由紀夫が好きか、と聞かれたら、正直首をひねらざるをえない。いまだによくわからないってのが本音だ(『金閣寺』も『仮面の告白』もいまいちノれなかったし)。
 だけど、この『美しい星』という小説はなんだかとってもいいなぁ、と思う。

 何がいいって、こんだけ自分の思想や美学を「本気で」信じている人なんてたぶん三島由紀夫以外にいなくて、それはすっごく孤独なことで、そしてその孤独な思想っぷりを文学にぶつけた結果、「いややっぱりどうかと自分でも思うんだけどさ……でもやっぱり俺は本気でこう思うわけよ、誰がわかってくれなくてもいいんだけど!」なんて言う彼の気配が感じられるところが、いい。

 本気で何かを信じるとき、たいていそれは誰にもわかってもらえない。というかむしろ他人からは気持ち悪がられるのがオチだ。
 だけどそれでも、信じる。
 だってそれが美しさだから。—三島由紀夫は、本気でそう言っているんだと思う。

『美しい星』は、三島唯一といっていい「SF小説」だ。
 時代は、東西冷戦が起こって核兵器が世界を滅ぼすんじゃないか—そんなふうに思われていた頃。ある日、埼玉県の旧家である大杉一家は「空飛ぶ円盤」を見たことで、自分たちが「宇宙人」であることに気づく。父・重一郎は火星、母・伊余子は木星、息子・一雄は水星、娘・暁子は金星から来た—彼らは本気でそう信じたのである。
 一家は、本当は自分たちが宇宙人であることを隠しながら、核兵器の恐怖による世界滅亡の危機を救おうとする。
 父は各地で講演会を開催したり、母はフルシチョフに手紙を書いたり……そんなことをしているうちに、娘・暁子の妊娠が発覚する。しかし暁子は「自分は処女懐胎だ」と言うのだ。金星人は、そうやって子孫を増やすのだ、と……。
 最初は、「何、SF? 宇宙人? ふぁっ?」と戸惑うのに、その文章のきらきらっぷりに惹き込まれて読んでしまう。
 結局、彼らが本当に宇宙人なのかどうかなんてことは問題じゃない。彼らがそう「思い込んだ」ことが大事な小説なのだ。

他人が引いちゃうような本気の思想を「宇宙人」という壮大なるメタファーを用いて、美しい小説にした作品
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『人生を狂わす名著50』(ライツ社刊)著者、三宅香帆による文学レポート。  ふと「いまの文学の流行りをレポート」みたいな内容を書いてみようかなと思い立ちました! なんとなく、音楽や映画だと「ナタリー」みたいな流行をまとめる記事っ...もっと読む

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コメント

kotokotokochang 人生を狂わす名著50、デザインや中身の“見”やすさもセンス抜群な本なんけど、美しい星載っててなんか嬉しかった。 1年以上前 replyretweetfavorite

bear_yoshi 「本気で何かを信じるとき、たいていそれは誰にもわかってもらえない。というかむしろ他人からは気持ち悪がられるのがオチだ」 1年以上前 replyretweetfavorite