睡眠の“ゴールデンタイム”
「もっと仕事をする時間を増やしたい」「寝るヒマがあったら仕事したい」……。仕事の部分に「遊び」が入ることもあるでしょう。睡眠時間を削りたいという人が陥りがちなのが、「午後10時から午前2時の間のゴールデンタイムに眠っていれば、少ない睡眠時間でも大丈夫」という大きな勘違いです。
そもそも、午後10時から午前2時くらいが睡眠のゴールデンタイムとされるようになったのは、その時間に寝ると、成長ホルモンという細胞の新陳代謝を促すホルモンが分泌され、若返りに役立つとメディアなどで紹介されたことがきっかけです。
まことしやかにいわれていますが、実は正しくありません。
成長ホルモンが分泌されるのは眠ってから1〜2時間後です。決まった時間に分泌されているわけではなく、眠りについた時間に影響されます。これは、睡眠の専門家の間では1990年頃から知られていることです。
なぜこんな勘違いが広まったのでしょう。もしかしたら、睡眠と成長ホルモンに関する研究論文に掲載されているグラフにその理由があるのかもしれません。これらのグラフでは、成長ホルモンのたくさん分泌されている時間帯が午後10時から午前2時くらいになっているものが多いのです。実際、睡眠の世界でもっともよく使われている教科書に掲載されているデータもそうなっています。
これには理由があります。
睡眠の研究では、データを取る際、午後9〜11時頃に被験者に眠ってもらうことが多いです。そのため、寝ついた約1時間後、つまり午後10時〜午前0時頃に成長ホルモンが一気に増え、そこからだんだん減っていく、というデータが現れます。そうすると、特定の時間帯に成長ホルモンがピークを迎えているように見えるのです。
しかしある研究者が、被験者を徹夜させたあと、翌日の午前11時に眠ってもらって成長ホルモンの分泌状態をチェックしたところ、夜の時間帯(徹夜中)には成長ホルモンは分泌されず、翌日の昼、眠った時間(午後1時頃)に成長ホルモンが増加していることがわかりました(下のグラフ参照)。
成長ホルモンの分泌を促すためには、必ず午後10時〜午前2時に寝ていないといけないということはないのです。
成長ホルモンが必ず分泌されるゴールデンタイムはありませんが、この言葉が広まったおかげで早く寝る人が増えたと聞きます。夜きちんと寝るのが大事だと知られるようになったという意味ではよかったのかもしれません。
ホルモンと睡眠の切っても切れない関係
成長ホルモンは眠りについた時間に影響されますが、体内時計にコントロールされているホルモンもあります。