松之丞の目は、はるかに先を見据えている。しかし現時点で足りないものも多い。その第一は、志を同じくする仲間だ。講談界の将来を考えるのであれば、後輩の存在は不可欠だろう。人的資源は現時点で圧倒的に不足している。何しろ〈絶滅危惧職〉なのだから。
「何人かは昔の僕と同じで前に回って聴いているかもしれない。でもまだ、弟子入り志願するには決め手がないと思うんです。僕だって将来、真打になったらすぐ弟子を取れるかといったらそれは難しい。僕自身の真打としての役目を果たすことが先ですから。取らなくちゃいけないだろうとは思いますけどね。ただ、今落語芸術協会は人が多くなってきていて、将来的には講談師の前座をそんなに受け入れられないかもしれないんです。僕は寄席でしか育ってないから、もし弟子が来たら同じ環境でやらせてあげたいし、環境が違ってきたら自分とは別の方法を模索しなきゃいけない。そういう悩みはあります。僕自身も、こんなチンピラ芸じゃなくてもっと変わって、師匠みたいにどっしりと構えていられるようにならないといけない。師匠には及ばなくても、その一合目か二合目かわからないですけど、そっちのほうの今とは違う山を登んなきゃいけなくなってくるでしょうから、その苛立ちもすごいでしょうしね。だからそのときはそのときでまた悩むと思います。ただ、弟子というよりも同志に来てほしいですね。同志が来ることによって僕自身も変わるでしょうし、講談師の数が増えれば、プロデューサーとしてやれることもいろいろある。どうやって全体を上げていくか、ということですね」
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