復讐手帖

10年間、支え続けた私を棄てた……ゲスなミュージシャンを許せない!

リカさん(34歳)が学生の頃知り合った彼は、大学を中退してバンド活動に専念していた。会社員をしながら必死に支える彼女に、彼はいつも感謝を告げ、「いつか結婚しよう」とも。そして、ようやくメジャーデビューが決まるも、どこか様子がおかしい彼。「身辺整理するよう言われた」という。さらに耳を疑うような言葉を浴びせられ……行き場を失った女の想いが向かう果てを描いた『復讐手帖』をcakesで特別連載中!

今までの熱烈な愛情を返せ! という思い

恋した相手への正しい愛情とは、いったいどういうものだろうと、ときどき考えることがある。愛するのは愛されたいためなのだろうか。あるいは見返りなど求めず、ただひたすら相手のことを思って愛を注ぐことができるものなのだろうか。
幼い子に対してなら、多くの親はひたすら愛情を注いでいるかもしれない。ただ、子どもが大きくなって自我が強くなると、親子で対立することもあり得る。親の支配欲に苦しめられている子もどれほどいるかわからない。親子でさえ成立しがたい「ただひたすら相手のことを思う言動」を、恋する相手にとれるものなのだろうか。
熱烈に愛し合っている(と片方が思っている)男女がいるとして、ある日突然、男が「僕にとってはあなたがいないほうが幸せなんだ」と言ったら、「じゃあ、解き放ってあげる」と答えることができる女性がどれだけいるだろう。こと恋愛に限っては、やはり見返りを求めない愛などないのではないだろうか。愛した分だけ愛されたい。それが本音なのではないかと思う。
だからこそ裏切られたとき、復讐心がわき起こる。自分の今までの愛情を返せと言いたくなるのだ。

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case❷【10年支えた末、別の世界に旅立つ、と去っていったミュージシャン 】

「私は長い間、ミュージシャンの彼のめんどうを見ていたんです」
そう話すのはリカさん(34歳)だ。
20歳の大学生の頃知り合った彼は、大学を中退してバンド活動に専念していた。
「アルバイトをしながらライブ活動をする彼を、私は必死に応援してきました。チラシを作って配ったりチケットを売ったり。放っておくと何も食べずに徹夜で曲を作っているような人なので、彼の冷蔵庫には常に作りおきの料理もストックして。私自身は普通の会社員。だからこそ、自分の夢を彼に託していたのかもしれません」
彼はいつも感謝してくれた。がんばっていつかメジャーになるから、売れたら結婚しよう、自分にはリカ以外考えられない。彼の言葉を彼女は信じた。
4年前、彼に転機が訪れた。ライブに来てくれた音楽関係者が目をつけてくれたのだ。
「10年近くマイナーな存在だったから、最初は彼も信じられなかったみたい。でも私はいつか彼が評価されると思っていました。彼は私を抱きしめて、『リカのおかげだよ。これで結婚できる』って。うれしくて泣きながら彼とワインで乾杯したんです」

ところが3か月後のある日、彼のアパートを訪ねるとなにか様子がおかしい。ひっきりなしに電話もかかってきて忙しそうだった。
「あのさ」
彼は何度も何か言いかけて口をつぐむ。
「どうしたの、何があったのと何度も聞いてやっと、彼が口を開いたんです。これからメジャーデビューするにあたって、身辺整理をするよう言われた、と。しかもそのときの彼の言いぐさがひどいんです。『オレ、別の世界に旅立つよ。だからリカも元気でがんばってよ』って。え、ついこの前、結婚しようって言ってくれたじゃないと怒ると、『結婚している場合じゃないんだよ。オレの人生はこれから変わるんだ』と。彼はそのまま、ちょっと打ち合わせに行ってくると出かけようとしたんです」
リカさんは彼にしがみついた。このまま行かせてはいけない気がしたからだ。私のこと好きって言ったじゃない、結婚するって言ったじゃない。そう叫びながらしがみついた。

「そうしたら彼、私を見下ろして、『うるせえなあ。ずっとおまえのことなんてたいして好きじゃなかったんだよ』と言い捨て、私を突き飛ばして出ていきました。立ち上がる気力もなかった。どうしたいいんだろう、この10年は何だったんだろう。泣きながら座り込んでいました」

だが次の瞬間、彼女は体中の血が逆流するような気持ちになった。
このまま身を引いてやるものか、今までの私の努力はどうなるのか。つらいとき、苦しいときだけ私を支えにして、彼はステップアップしていこうとしているのだ、ひとりで。そしていつか若くてきれいで、彼の貧乏時代を知らない女と結婚したりするのだろう。
「彼と若い女性が結婚式を挙げている絵が想像できて体が震えました。それだけは許せない。だったら彼をつぶしてやるしかない。そう思いました」

パソコンを破壊、楽曲データをすべて奪う

彼女は彼のパソコンにしがみついた。実はリカさんはパソコン関係の仕事をしている。
ハードディスクを壊すのもお手のものだ。こっそり破壊し、外付けのハードディスクは持ち出すことにした。彼は作った曲、作りかけの曲などはきちんとバックアップをとっておくタイプ。もし、別れ話があやまちだったとか、本当に大事なのはリカだとわかったとか言ってきたら、外付けハードディスクは返すつもりだった。
その晩、彼はリカさんの部屋のチャイムを何度も押した。だが彼女は居留守を使い続けた。彼の足音が去っていく。カーテンの隙間から見下ろすと、彼がおぼつかない足取りで歩いていくのが見えた。

「悪いことをしたとは思いませんでした。私を裏切ったのは彼だから」
彼の連絡先を携帯電話から削除した。とにかく「許せない」という言葉だけが頭の中で鳴り響いていたという。
「数日後、私が勤めている会社に彼の関係者が来たんです。パソコンのハードディスクを壊したことも、外付けハードディスクを持ち出したことも、知らないと言い張りました。

そのとき、その人が言ったんです。

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復讐手帖

亀山早苗

別れた男、不倫相手、夫……。男の裏切り、心変わり、嘘の塗り重ねに、行き場を失った女性たちの想いが”復讐”という形で狂気に変わっていく。独身男女の愛がこじれたとき、夫の不倫を知ってしまったとき、自分自身の不倫の末……など、実際にあった復...もっと読む

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