新宿発京都行きの深夜バスで、手紙の返事を書く

東京最後の夜、深夜バスを待つまでの間、小森谷くんは土岸やルミバイトの仲間たちと飲んでいた。バスまで見送りに来てくれたことに感謝して、小森谷くんは東京を後にする。直前に、亜成華ちゃんという元バイト仲間の女の子からもらった手紙を読んだ彼は、その後文通を始めることになる。
末期がんを宣告された男性の❝ありそうでなかった❞半生を描いた、『小森谷くんが決めたこと』を特別掲載!

「荷物、それ何入ってんの?」

「仕事道具と、あとはアイロン」

「アイロンって何でだよ!」

 東京最後の夜、深夜バスが出るまで、土岸やルミバイト仲間と新宿で飲んだ。

「え、じゃあ佳奈ちゃんはどこに住んでるの? どっち? どっち半球?」

「えー、北ですよー」

 土岸はルミバイト仲間のなかに完璧に溶け込んでいた。というより、いつの間にかヤツは、彼が紹介した美奈ちゃんとカップルになっている。

「中学生のときは、マンガを描いてました。マンガ家になりたかったんです」

 ビデオカメラを回しながら、メラくんが言った。もう随分長くて深い付きあいになるのだが、メラくんは決して敬語を崩さない。

「それって、どんなマンガなの?」

 と、野田亜也華ちゃんが訊いた。

「それは言えません」

「言えよ!」

「言えよ!」

 騒ぐ者たちの顔は、メラくんによって余すところなくビデオ撮影される。

「宇宙人が……高校に転校してくるんです。そして、宇宙パワーで甲子園を目指します」

「何だそれ!」

「タイトルはなんていうの?」

「……甲子園クライシス」

「クライシス!」

「甲子園クライシス!」

「だせえ!」

 お別れ会というより祝勝会みたいな感じで、というより普段の飲み会と何も変わらなかった。

 京都には修学旅行で行ったきりだけど、新幹線なら二時間ちょいだし、深夜バスなら五千円以下で行ける。

 きっと年に何回かは東京に帰ってくるだろうし、土岸あたりは、ふらっと京都に遊びに来そうだ。

「じゃあ、そろそろお開きにするか」

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余命2か月といわれた男—小森谷くんが決めたこと

中村航

僕、余命2ヶ月って言われたんですよ。でも、生き残っちゃいましたけど――。末期がんを宣告された30代男性の“ありそうでなかった”半生を、「100回泣くこと」の著者・中村航が小説化!

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