科学が教える、子育て成功への道

宝探しを通じて読み書きや計算を教えるフィラデルフィアの教育

私たちは勉強ができれば「成功」、お金があれば「幸せ」と決めつけたり、反対に、頭の悪いから「成功」は無理、安楽に生きられれば「幸せ」と思い込んだりしていないでしょうか? しかしそれは、きわめて一面的な「成功」と「幸せ」の定義です。もっと言うと、これからの世界にまったくそぐわない定義です。本書は子供達の「成功」と「幸せ」について、持ちがちな認識を根底から覆し、子供が心から「幸せだ」と人生を楽しめるように育てるには、親として何を考え、実行すればいいのか。『科学が教える、子育て成功への道』をcakesで特別連載!

私達は、本書を通じて、読者の皆さんと「もしこうだったら……」と想像して遊びたいと思う。なぜなら、それが、子供の学びの質と将来の成功に大きく関係するからである。もし、私達が、子供本来の学びのスタイルに合った教育システムを作ったらどうなるだろうか。もし、学校が、これから子供達が生きる将来の世界で必要とされる教育プログラムを提供したらどうなるだろうか。

子育てや学校教育の問題に文句をつけるのは簡単である。しかし、文句をつけている当の本人が、こうした問題を引き起こしている当事者であることを忘れてはいけない。我が子が学校「内」でどう学んでいるのか、更には放課後、家庭で我が子をどう教育したらよいのか、不安に思い、算数のテストの点数を上げるために、あるいは作文課題でトピックセンテンス(訳者註:段落の中心となる自分の主張を端的にまとめた一文)を書けるように、親は必死になって子供と関わろうとする。もしかしたら家で算数の問題を解く時間が少ないのではないか。子供の書いているトピックセンテンスは、教科書に書かれている例と違うような気がする。教師は、子供が正しく理解するようにきちんと指導しているのだろうか。不安と不平は募る一方だ。

私達は、科学者として、また母親として、長い間、様々な形で教育に関わってきた。その過程で、多くの親が教育に対して不安を抱いている現実に直面した。私達は、親がこうした不安を乗り越え、子供の学びや教育の本当の姿を知ってもらいたいと思い、この本を書いた。これから各章の中で、私達に多くのことを教えてくれた素晴らしい実践をしている学校について紹介する。また、最近の研究調査のデータ、科学的根拠に基づいた教育実践と共に、親達を惑わせる誤った情報や風潮を指摘して、複雑さを増す一方の二一世紀のグローバル世界の中で、子供達が、自らの可能性を存分に発揮して、知的かつ社会的に生き、人生で成功する道を考えてゆきたい。

もし、学校が熱帯雨林だったらどうなるか

私達は、フィラデルフィア郊外にあるフレンド・セントラル・スクールを訪れた。その日は、小学二年生から四年生までが熱帯雨林について学んでいて、学校の至るところが熱帯雨林になっていた。大きな緑の葉っぱをつけた、紙で作られた木をぬいぐるみの動物が上ろうとしているかと思うと、床には、紙の川が波を立てて流れている。

二年生の教室はインドネシアで、廊下の先はニューギニアだ。廊下の壁には、子供達の力作である先住民のお面が飾られている。それぞれのお面について、博物館のように解説が書かれていて、作った子供について紹介しているだけでなく、このお面が最初に作られた場所、由来などが記されている。四年生の教室では、宝島へ行くための船を製作して、算数と国語の授業を行っていた。校内の一つひとつの光景の中に、豊富な知識コンテンツが詰まっていて、廊下を歩くだけで自然に情報を体得できてしまう。子供達は、標識を読み、船の大きさを測定し、旅行する距離を計算し、そして、船の設計計画書を書く等、実際に使う必要性に迫られて、多くのスキルを身につけてゆく。

しかし、それはほんの一部でしかない。子供は、文字の読み書きや計算のような知識・スキル以上のことを、熱帯雨林プロジェクトを通じて学んでいる。それは、これからこの本を通じて語ってゆくことになる二一世紀に必要とされるスキルである。それはすべて「C」 から始まる言葉で、六種類あるので「六つのC」(以下、6Cs)と呼ぶ。

文字の読み書きや計算は、「コンテンツ(Content)」という、これまでの教育で特に大事にされてきたスキルで、6Csの一つだ。私達は、6Csを、全ての子供が深く考え、自ら創造し、行動する人になるために必要なスキルだと考えている。これらのスキルを子供が身につけることで、コミュニティに寄与しながら、個人の生活も充実している、善き市民として成長できる。

熱帯雨林の「仮想」旅行で使う船を一緒に作る仲間を募り、お互い協力し、アイデアを出し合うためには、コンテンツ(Content)に続く二つ目の「C」──コラボレーション(Collaboration)しなければならない。宝島に到着して発見したことを文章にまとめれば、コミュニケーション(Communication)する力が磨かれる。船を各自で設計した後、安定性、スピード、そして航海での耐久性について冷静に見極めなければならない。この時にクリティカルシンキング(Critical thinking)して、どうしたらうまくいきそうで、どうしたら失敗しそうか判断する。邪気を払うために船体に緑色の怪物の絵を描いたり、海賊を撃退するためにライオンと虎の旗を掲げたりするという、思わず笑ってしまうような新しいアイデアを思いつくのはクリエイティビティ(Creativity)が働くからだ。しかし、いつも楽しいことばかりではない。計画通りいかない事態が必ず生じる。最初考えていた素材ではうまく船を作れないと解った時、何度でも粘り強くやり直さなければならない。そんな時、絶対に困難を乗り切れるというコンフィデンス(Confidence)、自信が問われる。

私達は、自分の子供が「成功」することを望んでいるが、それは、従来の学校の成績評価で捉えられるようなものではない。これまでは、評価されるスキルが、6Csで言えば、コンテンツだけだった。知識というコンテンツをただ覚えているだけで、学校ではうまくやっていける。しかし、仕事をするとなったらそうはいかない。どんなにコンテンツの面で優れていても、コラボレーションできないなら、プロジェクトマネージャーとしては雇えない。どんなにコンテンツの面で優れていても、クリエイティビティがないなら、新たな方針に基づいてこれまでにない方法を模索しようとする研究チームの一員としては雇えない。

考えるのは子供のことばかりではない。あなた自身、6Csという観点で自分を見つめ直してみたらどうなるだろうか。あなたはどんな強みを持ち、反対にどんな部分はもっと伸ばすべきだろうか。あなたの持っているスキル、あるいは、持っていないスキルについて子供とどのように語り合ったらよいだろうか。

これまでとは違った意味で考えるために、「もし、こうだったら」という問いを投げかけてみよう。もし学校と家庭が、色々な人々と豊かに交流し、生涯学び続けることを楽しみ、柔軟に考えられる人を育てるために、6Csという観点で融合したらどうなるだろうか。本書では「もしこうだったら」という問いを投げかけ続けることで、これまで経験し、イメージしてきたのとは全く異なる学び方があるということを読者の皆さんが考えるように揺さぶりをかけてゆく。

私達は研究者であるだけでなく、母親であり、祖母でもある。二人共、子供達を育てた経験から、子育ての場面で何を選び、何を選ばないか考えるのはとても難しいことを痛感している。あなたがスマホの画面を見ている時、どんなことを考えているか、あなたの気持ちを想像することができる。自分の子供の知能をどうしたら上げられるのか、どうしても不安になる。

私達は、子供にとって本当に必要なことは何か決める時に、多くの親達が判断できずに困っていることを知っている。だからこそ、この本によって、これからの子育てにおいて根本となる指針をはっきり示したい。あなたの子供達が、持てる可能性を発揮するために必要なスキルを身につけ、社会の中で生き生きと暮らす幸せな人になるにはどうしたらよいのか、一緒に考えてゆこう。

アメリカの学習科学・発達心理学の第一人者が提唱する「子育て成功への道」

科学が教える、子育て成功への道

ロバータ・ミシュニック・ゴリンコフ
扶桑社
2017-08-19

この連載について

科学が教える、子育て成功への道

ロバータ・ミシュニック・ゴリンコフ /キャシー・ハーシュ=パセック

私たちは勉強ができれば「成功」、お金があれば「幸せ」と決めつけたり、反対に、頭の悪いから「成功」は無理、安楽に生きられれば「幸せ」と思い込んだりしていないでしょうか? しかしそれは、きわめて一面的な「成功」と「幸せ」の定義です。もっと...もっと読む

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RieDorji 6Cs-来年度の親御さんとのミーティングで話そう! 3年弱前 replyretweetfavorite

titchirorin 大人も身につけたいスキル6Cとは? > 3年弱前 replyretweetfavorite