この連載ではAIについて様々な側面から紹介してきた。最先端の深層学習を使ったAIにできることを簡単にまとめると、
・データの識別 画像や文章、音楽、動画、プログラムなどの分類
・データの生成 画像や文章、音楽、動画、プログラムなどの生成
・判断力の獲得 深層強化学習によるゲームの自動攻略
ということになる。特にデータの識別と生成は強力で、画像から文章、文章から画像、画像から画像など、あらゆる組み合わせでのデータ生成が可能になってきている。Googleはそのためのツールとして、先日Tensor2Tensorというツールも発表した。現状では、こうした汎用的なツールは、精度がいまひとつな側面もあるが、そういうことは時間とデータ量がいずれ解決する。人類はとんでもない道具を作り出してしまった。
どんな未来がやってくる?
今のところ、ディープラーニングは画像分野を得意としているが、画像でできることは、将来的にはあらゆるデータに対して同じことが可能になる。
たとえば、小説を読ませたら動画になるとか、勝手に挿絵が出てくるといったものは簡単に考えられる。また、会議室にAI搭載機器を置いておくと自動的に議事録が生成されたり、そこで話し合われた内容をもとにプレゼンテーションのスライドが生成されるような未来もやがて実現するだろう。
強化学習を搭載したロボット漁船やロボット農場では、電力さえあれば、勝手に食料が獲得され、ロボット料理人によるロボットファミレスでプロ顔負けの見事な料理を極めて安価に食べることができるようになるはずだ。
AIの浸透と並行して、ビットコインに代表されるブロックチェーンのような非中央集権的な経済の流れも加速してくるだろう。通常の通貨は、国家が価値を保証しているが、ビットコインは価値の保証者がいない。そのかわりブロックチェーンという技術を使って、ネットワークにいるすべての人で価値を作り出すのだ。
実際に、高速のマシンを持っていれば、ビットコインの「採掘」に参加することができる。採掘について補足すると、ビットコイン全体が健全に運用されるためには、コンピュータによる膨大な計算処理が必要だ。その計算処理を手伝った人には、ビットコインが報酬として支払われるのだ。これを採掘、あるいはマイニングと呼んでいる。
私は人工知能用の高速マシンの空き時間に、イーサリアムという暗号通貨を採掘させている。これが電気代を引いてだいたい3日で7000円くらいの稼ぎになるのだが、1ヵ月にすると7万円だ。今年の2月から始めて、今や50万円ほどになっている。
「たった月7万円かあ」と思われるかもしれないが、それは日本に住んでいるからだ。たとえば平均月収が2万円程度のベトナムであれば、話はまったく変わってくる。この収入を元手として今すぐベトナムに引っ越せば、全く働かずしてそこそこいい暮らしができる。
もちろん、月に7万円を稼ぐ機械が100万円くらいしているので、実際には収支で見れば回収するまでにもっと時間がかかるが、考え方によっては1年で回収したあとはその機械が自動的に利益を生み出してくれるわけだ。
相場取引は、基本的に人間はAIには絶対勝てない。これから参入する人は全てカモにされる運命を背負っているだろう。すると、トレーダーという仕事が消滅する。経営は囲碁に似ていると言われるが、いずれ経営でもAIには勝てなくなるだろう。既に広告戦略はAIの方が高い成果を挙げていると言われ始めている。
「お金とは何か」という哲学的な問題
AIが食料を自動供給し、調理も行い、会社の経営戦略からなにからなにまでやってくれる、そうした時代になるともはや我々は「お金とはなにか」「働くとはどういうことか」といった、より哲学的な問題と向き合う必要が出てくる。
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