ゾンビ先生の哲学授業 第9回「バークリと因果律の否定」— 後編
ひろ ……ということはだよ。今まで100万個のリンゴが落ちたとしても、次の100万1個目のリンゴは、ヘタが千切れた途端に月に向かって飛んでいくことがあるかもしれないってこと?
先生 それがヒュームの主張じゃ。もちろん「その可能性がある」ことを指摘しているだけじゃがな。しかし我々は誰も未来を正確に予測することなどできんのじゃから、「これから起こること」に絶対などないのじゃよ。つまり、帰納法によって普遍的な法則を導き出すことなどできんというのが、ヒュームの意見じゃ。
ひろ でも、そんなこと言ってたら、自然の法則なんてひとつも証明できないじゃない。そもそも、ヒュームは経験論者なんでしょう? 経験論者なのに帰納法を信用しないんなら、じゃあヒュームが信じているのはなんなんですか?
先生 「今」じゃよ。「今回はリンゴが落ちた」「今回は痛かった」、あくまで「今経験していること」だけが信じられるものということになる。そして、それをさらに追及すると「ドクロが先か、認識が先か」という問題が生まれるんじゃ。
ひろ あっそうか。その話をしていたんでしたね。
先生 もう一度確認じゃが、おまえが今テーブルの上のドクロを認識しているのは、あくまでも「ドクロがあるからドクロを認識している」のであり、「ドクロを認識しているからドクロがある」のではないと言うんじゃな?
ひろ ないと言うんじゃい! だって「認識しているからドクロがある」じゃあ、ドクロが存在するかどうかが僕の認識次第ってことになるじゃないか。僕にドクロを生み出す力などありませんもの!
先生 では聞くが、おまえは「今テーブルの上にドクロがある」ということは、絶対的な事実だと思うか?
ひろ 思うもなにも、事実でしょうが。実際に事実なんですからそりゃあ事実だと思うってもんですよ僕だって。
「今テーブルの上にドクロがある」ことが事実だという根拠はどこにある?
先生 それでは、事実だという根拠は? 「ここにドクロがある」という証拠はどこにある?
ひろ 証拠もなにも。だって、あるじゃないか! ここに! 目の前に!! 明らかに間違いなくはっきりと、僕の目に見えている!! ………………。見えている……? はっ!?
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