彼はマスコミ回りと並行して、仕事探しを始めた。
履歴書を出し、面接には気合いを入れて臨み、自分の意志やビジョンを相手に明確に伝える。
何でも耐える、ってことじゃないだろ──。
土岸の言葉が、胸の奥で鈍く光り続けていた。
耐えるだけでは、どこにも辿り着かない。おれたちは、うまくやんなきゃならない。
二十六歳になった彼は、以前よりはるかに逞しくなっていた。
長い青春を迷走し、厳しい仕事をくぐり抜け、いつの間にかタフに生きる実力が身についていたのかもしれない。
おれたちは、うまくやろうぜ──。
何度かの失敗はあったものの、やがて彼は正社員として採用してもらえることになった。
驚いたことに業界では最大手の、全国にシネコンを展開する映画館のチェーンだった。
「すいません。一身上の都合で、アルバイトを辞めたいのですが」
「あ、そう」
その配給会社は人の入れ替えが激しく、辞めるときも何も言われなかった。
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