部下にどこまで本当のことを伝えるか

戦うだけが、戦(いくさ)ではない。「逃げる」こともまた、戦なのだ。日本史上稀にみる見事な〝退却戦”、金ケ崎(かねがさき)の戦い(1570年)。徳川軍は、信長たっての頼みで織田軍とともに京都に留まっていた。しかし、いつまでたっても信長から出陣先が告げられないまま、数日が経過。ようやく出発の時が迫ってきたが・・・


「これ以降の軍糧は織田から支給される。軍糧の心配はせずともよい」

 ここは本当。信長本人からふたりだけのときに口頭で確約された。他の織田の家臣については家康は知らない。ただ、かぎりなく密約に近い気配であったので、他の家臣たちは支給されない可能性はある。

軍糧に関する件は口外してはならん。他の武将たちとのかねあいもある」

「御意」

「あと、敵は—」

 どこまで話すべきか。

 騙した相手からは騙される。重臣や親族など、もっとも信頼できる相手ほど、裏切られたときの痛手はおおきい。

 ここは噓をつく局面ではない。さりとて、信長本人から家康に何も伝えられず軍議でもなにも決められていないことを、家臣団につたえる局面でもない。

 どうするか。

「敵は越前の朝倉義景である」

 —俺は、噓はついていない

 家康は、自分に言いきかせた。

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歴史小説初心者、大歓迎!人気武将4人の悪戦苦闘を描く「4人シリーズ」第1弾。

この連載について

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金ケ崎の四人 ー信長、秀吉、光秀、家康ー

鈴木輝一郎

戦うだけが、戦(いくさ)ではない。「逃げる」こともまた、戦なのだ。 日本史上稀にみる見事な〝退却戦”、金ケ崎の戦い(1570年)。 信長(37)部下全員置き去りで逃亡。 秀吉(34)殿軍(しんがり)に抜擢も思考停止。 ...もっと読む

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