この連載の第一回では松之丞がその一員として加わっている、落語芸術協会の二ツ目ユニット〈成金〉の隆盛をお伝えした。もちろん、松之丞が個人で開催している会も紀伊國屋ホールなどの大きな会場を満員にする人気ぶりである。
「こんな急速に大箱でできるようになると思わなかったです。二ツ目なんて、そば屋さんの二階でやるのがせいぜいだと思うんですよ。二十人入れば多いくらいの感じで。ところが今はSNSが盛んなこともあって、松之丞面白いよ、って誰かが言ってくれたら口コミで拡散してどんどん来てくれる。もうちょっと時間かかるかなと思ったんですけど、意外に早くこの状況になりましたね。〈渋谷らくご〉以降は特に早かったです」
芸人で落語通のサンキュータツオがプロデューサーを務める〈渋谷らくご〉は、若者の街で人気落語家が出演する会を定期的に開催し、これまでにない客層を集めることに成功した。松之丞は第二回からほぼレギュラーとして出演している。
「ただ、情報の伝播は早かったんですけど、まだ自分のほうのインフラができてないんです。今は慌ててそれを整備している状況ですね。落語のインフラが充実してるんで、それと一緒にやるしか現時点では手段がないんです。講談だけで独立してやるのは難しいですから。とりあえず、神田松之丞が面白い、でいいやと。人的資源がないので、僕がアイコンになるしかない。それで興味を感じたら、次は師匠が出演する寄席に行ってみてください、今のうちに聴いてください、と誘導する。まずはお客さんを作らないといけないですから。こういう講談師を見た、という歴史をその人たちの思い出に残したいんです」
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