ダイコンとカブが食べないなぁ
祭囃子が響いてくる。近くの神社の秋祭りだ。
以前は有名で大きな祭りがいいと思っていたが、畑を始めてからは、観光客など一人も来ない、集落の鎮守の祭りが心にしみる。
「秋祭りって、収穫を感謝する祭りなんだねぇ」
畑近くの田んぼは稲刈りの真っ最中。道の端には野菊が咲き、木々には山帰来(さんきらい)がぶらさがる。その実が赤く色づくのもまもなくだろう。
「そうだよ。知らなかったの?」と夫があきれてこたえる。
知っていたけど、実感がなかったんだ。農業が身近になかったから。
笛や太鼓に合わせて、コオロギが合唱。秋の畑が大好きです。
10月も半ばを過ぎると、私が畑に植えた菊の花も咲き出します。
収穫祭の季節とはいえ10月の初めでは、コメはとれても、菜園でとれる野菜はさほど多くない。
早めに掘ったサトイモと、まだまだ元気なピーマンやナス、相変わらず苦いゴーヤに、カゴいっぱいとれる秋ミョウガ。ワサワサしげるクウシンサイとツルムラサキくらいだ。
梅酢に漬けるためのシソの実を摘みながら、思わずつぶやく。
「早くダイコン食べたいな~」
「食べたいね~。ダイコン煮たの、食べたいね~」
夫がうっとりした声でこたえる。
「カブも食べたいな~」
「食べたいね~。カブのお漬物、食べたいね~」
畑を始めてから我が家では、その時期に露地で育たない野菜は食べなくなった。
9月にタネまきしたダイコンとカブは、間引きを終え、選ばれた苗がすくすくと育っているところだ。久しぶりの味が待ち遠しい。
カブの生き様
カブは、育てて初めて生え方を知り、仰天した野菜の一つだ。
むろんカブは土に生える。それはそうなのだが、その生え方がみょうなのだ。土から8~9割飛び出た姿で生えるのである。
パンツをはかずに外に立っているみたいに無防備です。
最初はひどく戸惑った。
「土寄せを忘れたせいだよ」
夫に責められ、出ているカブに土をかけて埋めたくらいだ。
しかしカブは、「余計なお世話」といわんばかりに、翌年も自らパンツを脱いだ。
いつだったか、テレビのドラマで、俳優さんが庭先の畑のカブを抜くシーンを見たことがある。
カブは土にほとんど埋まり、葉は地につくほどしおれている。撮影用のセットの畑に、お店で買ってきたカブを埋めたのだろうから、そこは目をつむろう。
ただどうしても許せなかったのが、カブの抜き方だった。俳優さんは、わざわざ「力をこめています」という演技をして、カブを抜いたのだ。
「おかしいだろ、それ。そんなカブないぞ!」
思わずテレビに向かってツッコミを入れてしまった。
カブを抜くのに力などいらない。腕力のない私でも、片手で4~5本束にしてすっと抜ける。土から飛び出して生えているわけだから、なんの抵抗もなく抜けてしまうのだ。
土から現れた根はとても細くて、上部と比べると不釣り合いなほど貧相だ。
「よくこんな根で、雨にも負けず風にも負けず立っていられるもんだね」と、かえって感心してしまう。
カブは、根菜だといわれているが、白くて丸い部分は根ではない。葉のつけ根が肥大化したものだ。根は、その下にのびる細くて長い部分で、市販のカブには、取れてしまうのか取ってしまうのか、ついていないことが多い。
細くて長い部分がカブの根っこです。
そんなカブの生き様を知って、私はあの物語に大いに疑問をもつようになった。巨大なカブを大勢で抜こうとする「おおきなかぶ」である。
土に埋まって抜けない野菜なら、ゴボウとかナガイモでよさそうなのに、なぜカブなのだ?
おまけに、絵本を見ると、どれもこれも、8~9割土に埋まったカブが描かれている。菜園家として納得がいかない。
日本で大きなカブといえば、京野菜の「聖護院かぶ」だが、それだって土に埋まっている比率は少ないし、すんなり抜けるのだから。
一番下が、聖護院かぶです。土のついているところが、埋まっていた部分です。
ちなみに、上の2つがダイコンで、京都の「聖護院大根」と神奈川の「三浦大根」。下の2つがカブで、「あやめ雪」と「聖護院かぶ」。私が好きで、毎年育てている品種です。
大きなカブは黄色い!?
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