cakes & note 改善プロジェクト

CXOが加わってcakesとnoteのデザインチームが目指すもの

デザインという響きからは想像もできないほど幅広い領域にわたって、プロダクトにまつわる体験全体を設計する仕事、UXデザイン。このたびピースオブケイクのCXO(Chief eXperience Officer)に就任した深津貴之さんは、UXデザイナーとしての知見と技術をどういう場所で学んできたのでしょうか。また、CXOとして構築していきたい、これからのデザインチームとは?(前編はこちら

行動科学×プロダクトデザイン×UI設計

— UXデザイナーは経営、エンジニアリング、マーケティング、カスタマーサポートの領域まで横断してデザインをするというお話でしたが、そういうデザイナーはどうやったら育成できるんですか?

深津貴之(以下、深津) どうやったら……うーん、他の方のケースはわかりませんが、僕の場合はこれまでの教育や仕事のキャリアが横断的だった、というのがあるかもしれません。

加藤貞顕(以下、加藤) そのあたりの深津さんの話、聞きたいです。大学では何を学ばれていたんですか?

深津 大学は武蔵工業大学の環境情報学部で、所属したゼミではテクノロジーによってユーザーの行動がどう変化するかといった研究が行われていました。ワークショップなどを通じて、携帯を持った子供の行動がどう変化するかを観察したりしていましたね。それから、モノのインターフェイスに興味が移って、ロンドンのセントラル・セント・マーチンズという芸術大学に進学し、プロダクトデザインを学びました。


左:深津貴之さん 右:加藤貞顕(ピースオブケイクCEO)

加藤 なるほど。もともとは、プロダクトデザインをやっていたんですね。

深津 そう、椅子とか照明とか作っていたんです。そこで、デザイン理論やデザイン・リサーチの手法を学びました。ところがロンドンの大学は休学をし、日本に戻ってきて中村勇吾さんの会社、tha ltd.に入りました。そこで、Flashを使った、おもしろいインタラクションのあるウェブサイトなどを作っていました。ここでは広告コンテンツとして注目を集めるキャッチーさや、動きの気持ちよさをどう作るかを学びました。 ここからは半ば偶然なんですが、日本の大学時代、イギリスの大学時代、thaの時代でやったことをかけ合わせると、ちょうどスマートフォンのアプリに最適な技術がフルセットで身に付いていたんです(笑)。

加藤 そうか、ちょうどそのころにiPhoneが出てきて。で、それが「Toy Camera」という大ヒットアプリの開発につながるんですね。あれは2008年くらいでしたっけ。どのくらい売れたんですか?

深津 シリーズでカメラアプリを3本出してるんですけど、合わせて120万〜130万本くらい売れましたね。

加藤 すごいな。ぼく、たしかそのころにはじめて深津さんにお会いしたんだと思います。

深津 2009年でしたね。こうやって振り返ると、統合、横断することに特化したようなデザイン教育を受けてきたのかもしれません。

バナーづくりはウェブデザイナーの仕事じゃない

— いま、ピースオブケイクではCXOとしてどんなことをされているんですか?

深津 まず、大型の液晶モニタを買ってくださいとお願いしました(笑)。

— え、なぜ? もっとこう、note・cakesアプリの使い心地を良くするとか……。

深津 だから、それはUXデザインのほんの一部、しかももっと後にやることなんです。最初にやらなければいけないことは、noteやcakesのあらゆるデータを可視化すること。そこから、noteとはこういうものである、cakesとはこういうものである、ユーザーはこういう人達であるということを、定量的に見える形にしてチームの間で共有する。 並行して、定性的なインタビューやユーザーの観察もして、noteやcakesとは何かという輪郭をはっきりさせていくんです。その理解が、チーム全体に行き渡るようにするのが第一段階ですね。輪郭がわかれば、目指すべき形と現在の形はどれくらい違うのか、どこに欠けがあるのか、といったことがわかってくるので。

— UXデザインはそこから始まるんですね。加藤さんとしては、その提案は意外でしたか?

加藤 いや、「そのとおりです」と思いましたよ。もちろん、データが大事だとは認識していて、これまでも数値的な分析はしていたんです。ただ、深津さんはその徹底っぷりが半端ない。ここまでやるのか、と思いました。また、自分たちのことって、わかっているつもりでわかっていなかったんだ、ということも実感しました。

深津 加藤さんは、言ったらすぐ大きなモニタを買ってくれたので本当によかった(笑)。データをダッシュボードのようなかたちで可視化して、常に見えるところに置いておきましょうと、コンサルティングで入るほぼすべての案件で提案するんです。データをもとに仮説を立ててデザインするのは、基本中の基本ですから。でも、ほとんどの人が実行してくれないんです。担当者の決済権がなくてディスプレイが買えないとか、事業部ごとの目標を達成するのに一生懸命でそこまで手が回らない、とか。

— 決済権があるのとないのとではUXデザインの精度が変わるというのは、こういうところに表れるんですね。

加藤 本来、デザイナーに決済権があるのは必須だと思うんですよね。企業におけるデザインというのは、事業としてやりたいことを顧客にとどけるインターフェースですよね。でもIT企業ってけっこう、デザイナーが社内仕事の受託業者みたいになっている会社が多いと思うんです。それはもったいないですよね。

深津 「バナー作っといて」と言われて、そういう作業ばかりやってるとかね。でも、バナーづくりはデザイナーのコアの仕事じゃないんですよ。デザインは問題解決をするツールなんです。デザイナーによってその解決する武器が違うだけで、そこは共通している。例えば、問題解決に視覚的な美しさを使うならグラフィックデザイナーだし、構造体や物理的機能を使うならプロダクトデザイナー。そして、問題解決に体験そのものの改善・創造をするのがUXデザイナー、だと考えています。扱視覚、構造、インターフェースなど、デザイナーによって手法は変わりますが、基本的には問題解決や価値創造をするのがデザイナーの仕事だと考えています。

加藤 深津さんにはCXOとして、新しいデザインチームの構築もお願いしたいと思っているんです。

深津 CXO体制で始まる新しいピースオブケイクでは、デザインが社長直轄の最優先事項になります。というか、僕がします(笑)。デザイナーには、「画面のボタンをどこに設置するか」などではなく、noteやcakesはどうあるべきか、noteやcakesにふれることでユーザーはどう変わるべきか、ということからデザインを考えてもらいます。もし、デザインチームでやっていることと会社の方針にねじれがあったら、CXOである僕が直接加藤さんに話す。もしくは、デザイナーが直接意見を言えるようにします。

— これはいま、デザイナーとして働いているけれど、社内のいろいろな事情でバナー職人になっていたり、決定権がなかったりしている人には魅力的な話ですね。

深津 正しくやるべきことをやれるようにするのが、CXOとしての僕の仕事ですからね。

加藤 というわけで、ピースオブケイクではデザイナーを募集してますので、よろしくお願いします。

— これから深津さんはピースオブケイクでどんなことをやっていきたいですか?

深津 できればAppleとかザッポスとかNikeレベルでUXがすばらしい会社にしたいですね。

加藤 Appleは、ユーザ体験という点では別格ですよね。ぼく、『スティーブ・ジョブズ』のなかにある、アップルストアを作ったくだりが大好きなんですよ。量販店で自分たちのマシンを売りたくなくて、ユーザーの購買体験をコントロールしたかったんですよね。ザッポスはAmazonが買収した靴の通販の会社ですよね。『ザッポス伝説』は前職で同僚が編集したのでぼくも読みましたよ。

深津 ザッポスは、カスタマーサ―ビスがすごいんですよね。他の店にその靴がないか探してくれるとか、現場にお金を使う権限もあってプレゼントやお詫びの品をカスタマーに送れるとか。あと、採用の仕組みもおもしろかったなあ。

加藤 そうですそうです。深津さん、本の内容よく覚えてますね。

深津 僕の仕事の範疇ですからね。そのレベルの最高のUXを日本で実現したいと思ってるんです。コンバージョンや継続率に何が一番効くかというと、「特別な体験をしたかどうか」だと思うんです。例えばバスケットボールをやっている子どもが、憧れの選手にNikeのイベントで「かっこいいな、がんばれよ!」って言われたら、一生バスケやるでしょう。自分だったらNikeの商品使い続けますよ。noteだって、noteで記事を書いてて、何かのイベントで村上春樹に会って、「そういえば君のnoteの記事読んだよ、おもしろかった」って言われたら、もう書くことやめないでしょう。

加藤 それはずっと書きますね……!

— 体験の力ってすごいんですね。

深津 やっぱり、基本的な体験を大事にしていきたいですね。note でいうと「読んで楽しいこと、書いて楽しいこと」だと思います。具体的には、読者なら、おもしろい記事に出会えること。作家であるならば、書いていて心地よく、そしてファンからの反響も得られること。そういう基本的なことがいちばんユーザの心をつかみます。これは細かな機能などよりもはるかに重要です。
 まずはそういった本質的な部分から、しっかりとUXを改善していければなぁと思います。

加藤 そうですね。この会社のキャッチフレーズは「クリエイターと読者をつなぐ」なんですよ。会社をつくって6年たちましたが、多くのクリエイターのかたから、さまざまなコンテンツが生まれて、ベストセラーだったり、映像化された作品も生まれてきています。深津さんをCXOにむかえて、その本質をしっかり伸ばしていきたいと思います。これからよろしくおねがいします!

深津 はい。がんばります。

聞き手・構成:崎谷実穂

ピースオブケイクでは、一緒に働くデザイナーを募集しています。
ご興味のあるかたは、こちらからぜひお気軽にご応募ください。

この連載について

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cakes & note 改善プロジェクト

深津貴之 /加藤貞顕

cakes、noteを運営するピースオブケイクに、強力な助っ人が加わりました。ネット上ではfladdictとしても有名な、深津貴之さんです。Flashのウェブデザイナーから、大ヒットiPhoneアプリの開発者を経て、UXデザイナーとし...もっと読む

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コメント

masuP9 データの常に見える化やりたい 3ヶ月前 replyretweetfavorite

nishiaratter 勉強になる→ 3ヶ月前 replyretweetfavorite

ryodan23 まさにやなぁ。“コンバージョンや継続率に何が一番効くかというと、「特別な体験をしたかどうか」” 3ヶ月前 replyretweetfavorite

hiromin_design 『UXデザインはあらゆるデータを可視化することから始まる。デザイナーの仕事はバナー作りじゃない。』 https://t.co/VqJBAgpZPI 3ヶ月前 replyretweetfavorite