左から、柴那典、スージー鈴木、大谷ノブ彦
桑田佳祐の声には「泣き」と「濡れ」がある
大谷ノブ彦(以下、大谷) 前回に引き続き、音楽評論家のスージー鈴木さんと桑田佳祐さんについて語っていきたいな、と。
柴那典(以下、柴) そうそう、今年『渋谷音楽図鑑』という本を出したんですけれど、その共著が音楽プロデューサーの藤井丈司さんで。
スージー鈴木(以下、スージー) サザンの『人気者で行こう』や『KAMAKURA』に参加した方ですね。
柴 その藤井さんが、桑田さんの声についてすごく印象的なことを言っていたんですよ。本の中に「都市型ポップスを音楽的に解析する」という章があるんですけれど、当然、サザンの曲を入れるかどうかという話になる。その時に、サザンは「都市型ポップス」ではなくて、全国に届く「国民的ポップス」だと藤井さんが言っていたんです。
大谷 間違いない。
柴 で、それをわける決め手が声の響きなんだと言うんです。国民的なポップスには、声に泣きや濡れがある、と。
スージー ありますね。よくわかります。
柴 対して、都市型ポップスの象徴であるフリッパーズ・ギターの小沢健二や小山田圭吾の声にはそれがない。
スージー ツルツルですよね。
柴 だから歌には独特の少年性があるんですけれど、「泣きと濡れ」が出す独特の哀愁がないから日本の地方の津々浦々までは届かない。同じように声に泣きと濡れがあるのが宇多田ヒカルだ、と。これは藤井さんならではの、音楽プロデューサー的な分析だなと思って。
スージー 桑田佳祐の声ってすごいハスキーじゃないですか。彼の声をCDでスピーカーから聴くときと、容量を圧縮したMP3で聴くのでは、印象が全然違うんですよね。
大谷・柴 へえー!
スージー レコードやCDで聴いたときのほうが、声のざらつきや複雑な倍音が再現されて、より濡れて聴こえるんですよ。圧縮音源で聴くとそれがなくなっちゃう。
柴 ハイレゾ音源も出ているから、それで聴くとさらにわかりますね。
大谷 桑田さんって、もともと洋楽マニアですよね。
スージー 間違いないでしょう。
大谷 洋楽が大好きで、それを日本語で歌うというところから始まってるのに、マニアックにならないというか、ちゃんと歌謡曲、国民的ポップスのアウトプットになってるんですよね。
柴 そうなんですよね。桑田さんって、洋楽をふんだんに取り入れる音楽主義と下世話でウケ狙いなところと、二つの面を振り子のように行き来しているなと思っていて。
スージー 1億人を騒がせたいっていう業(ごう)のようなものがあるんでしょうね。やっぱり「1億人を振り向かせたい」っていうのは歌謡曲の定義ですから。
桑田佳祐が書いた「企画書」
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