久坂部 羊
天才精神科医の殺人鬼、レクター博士が残した謎のメッセージとは?
トマス・ハリスの小説『羊たちの沈黙』で、天才精神科医の殺人鬼・レクター博士は、FBIから連続殺人鬼バッファロウ・ビルの情報を求められ、犯人の名前を「ビリー・ルービン」と答えました。実は大便をつくる要素のひとつは「ビリルビン」という物質。ビリルビンの働きを紐解くことで、博士が残した皮肉なメッセージをより味わい深く楽しむことができるかも? 医療小説の奇才・久坂部羊さんが身体のヒミツを語りつくします!
巨大な化学工場 肝臓
肝臓は腹部で最大の臓器(重さ約1・0~1・5㎏)で、化学工場のような役割を果たしています。代謝、解毒、貯蔵、アルブミンの合成、アルコールの分解、胆汁の分泌などを行い、機能が低下すれば死につながる重要な臓器です。
肝臓は肝細胞のかたまりですが、内部に「胆管」という細い管が張り巡らされています。それが徐々に集まって太くなり、最後に「総胆管」という薬指ほどの管になって、十二指腸につながっています。その出口が前述のファーター乳頭です。
一般に、内臓には年齢が表れにくく、胃や腸は若い人も高齢者もまず見分けがつきませんが、肝臓には年齢的な変化が表れます。若い人の肝臓は、エッジ(縁)がシャープで、鮮やかな茶紅色をしていますが、年齢とともに丸みを帯び、色もくすんで灰色がかってきます。高齢者の手術のとき、エッジが丸く垂れ気味になっている肝臓など見ると、思わず、長い間ご苦労さんと声をかけたくなります。
ちなみに、動物の肝臓は食用になりますが、人間の肝臓も味は変わらないと思います。食べたことはありませんが、電気メスで焼いたときのにおいは、焼き肉店で嗅ぐのと同じですから。
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うんこはどうして茶色いの? マリリンモンローの謎の手術痕って? 謎がいっぱいの医療の世界へようこそ!
この連載について
久坂部 羊
ようこそ、ミステリアスな医療の世界へ――。本講座では、モーツァルト、レクター博士、手塚治虫、ドストエフスキー、芥川龍之介、ゴッホ、デビットボウイなど、文学や映画、芸術を切り口に人体の不思議を紐解いてゆきます。脳ミソを喰われても痛くない...もっと読む
著者プロフィール
1955年大阪府生まれ。医師、作家。大阪大学医学部卒業。二十代で文芸同人誌「VIKING」に参加。外務省の医務官として九年間海外で勤務した後、高齢者を対象とした在宅訪問診療に従事。2003年『廃用身』で小説家デビュー。以後、現代の医療に問題提起する刺激的な作品を次々に発表。14年『悪医』で第三回日本医療小説大賞を受賞。主な小説に、『破裂』『無痛』『嗤う名医』『芥川症』『いつか、あなたも』『虚栄』『反社会品』『老乱』『テロリストの処方』『院長選挙』などがある。新書『大学病院のウラは墓場』『日本人の死に時』『医療幻想 思い込みが患者を殺す』『人間の死に方』など小説外の作品も手掛けている。