「バトンを渡す相手が見えたから、そこまで全力疾走しなきゃって」
カツセマサヒコ(以下、カツセ) まずは、左ききのエレン、連載お疲れ様でした!
かっぴー ありがとうございます。終わったなあ……。
カツセ 昨日は最終話の公開直後から、SNSの反響がすごかったですね。「かっぴー」も「左ききのエレン」も、一日中トレンド入りしていました。
かっぴー うん、ずっと見ていました。ちょっと落ち着いてから、今日の取材のために美容室に行ったけど(笑)。
カツセ それなのに、ニット帽被ってきちゃったんですか?
かっぴー 朝起きたら、なんか気に入らなくって(笑)。
カツセ あえてざっくりとした質問をさせてください。終わってみて、いかがですか?
かっぴー 終わったなあ、という感覚があったのは、最終話のネームができたときなんですよね。公開の数週間前にはネームが完成していたから、「終わった」というより「終わってた」って感じかなあ……。
カツセ 達成感は、大きかった?
かっぴー エレンと光一が再会した時点でもう、達成感のピークは来ていたんですよね。「ふたりが再会したら、この物語は終わるんだ」って、頭の中でずっと思っていたから。
61話の再会シーン。ここが、かっぴーさんの中でのクライマックスだった。
カツセ 最終話公開後のSNSのリアクションは、どんな気持ちで見ていたんですか?
かっぴー 最終話はさすがに感慨深かったんですけど、ストーリーの後半は、そこまで読者のリアクションを気にしていませんでした。
カツセ それは、作品を終わらせることに専念していたから?
かっぴー うん。最後はもう描くしかないから、絵をちゃんと描こうと思って。
最終話で、エレンの回顧展が開かれた舞台、ヨコハマ創造都市センター(旧bankART1929)。
実際の建物の様子が、詳細に再現されている。
かっぴー 「少年ジャンプ+」でリメイクすることが決まっていたので、ちゃんと本気で描いてから、次に託さないとって思ったんです。「どうせリメイクされるんだから」と考える人もいるかもしれませんけど、だからこそ本気で描こうと。
カツセ それは、「ジャンプ+」にいい意味でのプレッシャーをかけるため?
かっぴー いや、バトンを渡す相手が見えたから、そこまで全力疾走しなきゃって。
カツセ なるほど。出しきった感覚はありますか?
かっぴー うん、一周目は、これでもうやり切ったと思えています。
左ききのエレンのつくりかた
カツセ 「左ききのエレン」と言えば、クリエイターの群像劇として、時間と場所が行き来するところに読者を引き込む魅力がありますよね。
かっぴー あれは、時系列が論理破綻しないように、登場人物の年表を全てエクセルで管理していました。
カツセ そこまでやっていたんですか!? ファンの方が、「時系列順に並べた」みたいな記事を出していましたもんね。よほど緻密なんだろうなあと。
かっぴー そうそう。論理破綻しないように、現実とすり合わせるのが大変だった。「ここはLINEを使おうか……」と思っても、2010年にはまだLINEがなかったりして。
カツセ 神谷さんがiPhone 3Gを紹介するシーンとか、今となっては当たり前のことを、大予言のように言うじゃないですか。でも、当時はあれが最先端だったんだなあと思い返しました。
40話より、iPhoneによる革命を予言する神谷
かっぴー 細かな設定に関しては、挙げればキリがないほどあるんです。頭の中には30巻分くらいの話がある。でも、それを全て描くんじゃなくて、映画みたいに「どこを摘まむか」を考えていた。ずっと編集作業をしている感覚でした。
カツセ 「あそこの伏線が回収された」と、考察しているファンも多かったけど、それはかっぴーさんが“狙ってやった”というよりは、たまたま“覗き見えた”という感覚に近いのかもしれないですね。
かっぴー うんうん。たとえば、ニューヨーク編の後、ニューヨークに残ったさゆりはアンナキシの契約社員になる。そうやって、カメラが回っていないところにも、キャラクターはそれぞれ裏で動いているんですよね。
カツセ 本当に映画みたいだ。聞けばいくらでも出てきそうですね。
かっぴー うん、いくらでも出てきます。全キャラクターにそれぞれのストーリーがあるので。
読まれなかった時期の葛藤
カツセ 後半では、「少年ジャンプ+」でのリメイクについても伺いますが、まずはcakesで連載を始めたころの初心を思い出せますか?
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