M&Aと決算~マルチプルを計算して買収ニュースを正しく読み解こう

noteで好評連載中の「決算が読めるようになるノート」を、ビジネスモデル別に再編集した書籍『MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣』。今回は「第7章:企業買収(M&A)と決算」の中身を少しだけご紹介します。

ソフトウェア・インターネット業界のように変化の激しい業界では、企業買収(M&A)を行うことで成長していく戦略が広く使われています。

経営にスピードが求められる昨今は、自前主義ですべてをカバーするよりも、すでに何らかの形で成功している企業を買収する方が合理的、というシチュエ ーションが多々あるからです。

M&Aがどのように進むのかを理解しよう

会社を丸ごと買収し、自社に取り込むというプロセスは、売り手・買い手の双 方にとって非常にダイナミックなものです。このM&Aのプロセスは、一般的には当事者間のみで行われるもので、部外者が覗き見ることはできません。

ただ、文書の形で買収取引の経緯が記録されていることもあるので、これを読むことで疑似体験することはできます。書籍『MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣』では、米ビジネスSNS大手のLinkedIn(リンクトイン)を米Microsoftが買収した事例と、米Yahoo!の事業売却の事例を通じて、M&Aがどのように進んでいくのかリアルな実態を紹介しています。

各社のM&Aを「マルチプル」で見てみる

さて、M&Aにおける「買収金額」はどのようにして決まるのでしょうか? 基本的には、我々が普段利用するオークションサービスと同じ仕組みで、売り手の考える「売りたい値段」と、買い手の考える「買いたい値段」がマッチした時にM&Aが成立します。それゆえ買収金額はケースバイケースになるわけですが、買収金額を検討する際の目安は存在しています。

買収金額が年間売上・営業利益・純利益などの何倍にあたるのか?という「マルチプル」を使うことが多くあります。

例えば、売上が10億円、営業利益が2億円、純利益が1億円の会社を100億円で買収するケースでは、

売上マルチプル=買収金額(100億円)÷売上(10億円)で10倍

となります。他にも、「営業利益マルチプル」は50倍、「PER」(株価収益率)は100倍、などと計算されます。つまり、マルチプルは対象となる指標によって変わるということです。

マルチプルの計算式は指標によって複雑になることがあるので、ここでは詳しい説明は割愛しますが、記事冒頭の画像内で2つだけ紹介しています。一般に成長率の高い企業ほど大きなマルチプルが適用されます。買収時点での売上・利益よりも、将来の売上・利益が大きくなるためです。

このマルチプルの考え方を知ってもらうために、この記事では3つのM&Aケースを紹介します。それぞれ全く異なるマルチプルで買収が行われていますが、決算を深く読み込むことで、なぜ各社がそのようなマルチプルでM&Aを行ったのかが理解できるようになるでしょう。

ソフトバンクがARM社の買収に約3兆円もの巨額を投じた理由

2016年7月18日、ソフトバンクが英ARM社を買収すると発表しました。それも、約3兆2000億円というソフトバンク史上最大の買収額です(2016年当時)。金額、タイミング、買収先すべてに驚くばかりですが、イギリスのEU離脱が 決定した影響でポンド安になっていた時期ということもあり、為替を上手く利用したタイミングだったと言えるでしょう。

ここでは、先ほど予告した通り、M&Aで買収金額の目安となる「マルチプル」を見ながら買収の狙いを読み解いていきます。

その前に、ARM社が何をしている会社なのかを説明しましょう。一般にはあまり知られていないかもしれませんが、一言でいうと「組込み型半導体のライセンス提供」をしている会社です。

ライセンスビジネスというのは、長きに渡る研究・開発と、そこで投じたコストを長期的に回収する販売戦略が必要不可欠です。同社のWebサイトのカンパニーページにも、

  • 基礎研究に2〜3年
  • 製品化に3〜4年
  • その後25年以上に渡って販売する


というビジネスモデルが記してあります。例えばソフトウェア開発などに比べると、圧倒的に長いサイクルでビジネスを構築しています。

では、本題に戻りましょう。この買収のマルチプルを見ていきます。

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MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣

シバタナオキ

noteで好評連載中の「決算が読めるようになるノート」を、ビジネスモデル別に再編集した書籍『MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣』。この連載では、本書の中身や、noteのコンテンツを書籍化した際の裏話などをご紹介していきます。

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