藤田貴大
肺活量の乏しさは武器でしかない。
−たまらなくさせるその声−
【第22回】「彼女の口から微かに出たとたん、すぐに落下していってしまう音たち……」。今回は、どこまでも愛おしく、切なく、「あのこ」の声を求めてしまうアラサー男子のセンチメンタルな独白タイムです。秋ですね〜。
「のどに粉が貼りつくんだよね、このクスリ」
なんて言った、あのこはいま、なにをしているんだろう。あのこはたしか、ぜんそくみたいなかんじで。アドエア、っていうシュコーって吸うタイプのクスリを常備していた。アドエアは、まるいカタチをした浅田飴の缶みたいな、ちょうどあのサイズのプラスチックでできたもので。カチッとすると、吸うところに粉が補てんされて、それを吸うみたいなかんじのものだ。グーニーズの主役のあいつが持っているのよりも、もうちょっと近代的なかんじの。あれを常備していたあのこ。もちろん、声はちいさくて、ぼくはその声をきくのがたまらなく好きだった。ぼくだけが聞き分けることができる音みたいで、それがよかった。
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この連載について
藤田貴大
演劇界のみならず、さまざまなカルチャーシーンで注目を集める演劇作家・藤田貴大が、“おんなのこ”を追いかけて、悶々とする20代までの日常をお蔵出し!「これ、(書いて)大丈夫なんですか?」という女子がいる一方で、「透きとおった変態性と切な...もっと読む
著者プロフィール
1985年生まれ、北海道出身。桜美林大学文学部総合文化学科にて演劇を専攻、2007年に『スープも枯れた』でマームとジプシーを旗揚げ。2011年に発表した三連作『かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと、しおふる世界。』で第56回岸田國士戯曲賞を受賞。2013年『てんとてんを、むすぶせん。からなる、立体。そのなかに、つまっている、いくつもの。ことなった、世界。および、ひかりについて。』で初の海外公演。さまざまな分野のアーティストとの共作を意欲的に行うと同時に、中高生たちとのプロジェクトも積極的に行っている。主な演劇作品は『あ、ストレンジャー』『cocoon』『書を捨てよ町へ出よう』『小指の思い出』『ロミオとジュリエット』『sheep sleep sharp』など。著書に『おんなのこはもりのなか』『Kと真夜中のほとりで』がある。