就職氷河期、ちなみにこの年度の大学四年生の就職率は、五十五・一%だ。
氷原を彷徨い歩くマンモスのように、彼は映画配給会社の新卒募集を探した。
だけど新卒を募集しているところは五社もなかった。全て受けてみたものの、あっさり全滅した。
ならば今のうちからアルバイトとして潜り込んで、後に正社員を目指すのはどうだろうかと考え、二十社ほどに電話してみたのだが、これも無理だった。
大学生という立場では、アルバイトなり契約社員なりといった雇用形態は難しいらしい。
就職活動といっても、そこでやれることが途切れてしまった。
彼の未来には暗雲が立ちこめていたが、そんなのは今に始まったことではない。
彼はあくまでも前向きであり、また楽観的だった。
配給会社の件は卒業してからまた考えよう、まずは卒業に集中しよう、と、彼はここから怒濤のように単位を取り始める。
来年四月の卒業には単位が足りなかったが、炎のリカバリーによって、来年九月に卒業できる見込みができていた。
うまくいけば、同級生より半年遅れの、秋卒業ということになる。
単位を取り、英会話教室に通い、アルバイトの掛け持ちもこなし、この時期の彼はなかなか忙しい日々を送っていた。
そういう彼の状況もあったし、文子さんが転職をして三郷に引っ越したこともあった。あれだけ仲の良かった二人が、徐々にすれ違い始めていた。
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