早朝4時に彼女の家まで車を走らせる理由

就職氷河期のせいで、映画配給会社への就職がかなわなかった小森谷くんは、まず大学の卒業を目標に、単位取得やアルバイトに専念していた。そうした中、文子さんに会う頻度はどんどん減っていき、仲が良かった二人は、喧嘩ばかりするようになってしまい……。
末期がんを宣告された男性の❝ありそうでなかった❞半生を描いた、『小森谷くんが決めたこと』を特別掲載!

 就職氷河期、ちなみにこの年度の大学四年生の就職率は、五十五・一%だ。

 氷原を彷徨い歩くマンモスのように、彼は映画配給会社の新卒募集を探した。

 だけど新卒を募集しているところは五社もなかった。全て受けてみたものの、あっさり全滅した。

 ならば今のうちからアルバイトとして潜り込んで、後に正社員を目指すのはどうだろうかと考え、二十社ほどに電話してみたのだが、これも無理だった。

 大学生という立場では、アルバイトなり契約社員なりといった雇用形態は難しいらしい。

 就職活動といっても、そこでやれることが途切れてしまった。

 彼の未来には暗雲が立ちこめていたが、そんなのは今に始まったことではない。

 彼はあくまでも前向きであり、また楽観的だった。

 配給会社の件は卒業してからまた考えよう、まずは卒業に集中しよう、と、彼はここから怒濤のように単位を取り始める。

 来年四月の卒業には単位が足りなかったが、炎のリカバリーによって、来年九月に卒業できる見込みができていた。

 うまくいけば、同級生より半年遅れの、秋卒業ということになる。

 単位を取り、英会話教室に通い、アルバイトの掛け持ちもこなし、この時期の彼はなかなか忙しい日々を送っていた。

 そういう彼の状況もあったし、文子さんが転職をして三郷に引っ越したこともあった。あれだけ仲の良かった二人が、徐々にすれ違い始めていた。

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余命2か月といわれた男—小森谷くんが決めたこと

中村航

僕、余命2ヶ月って言われたんですよ。でも、生き残っちゃいましたけど――。末期がんを宣告された30代男性の“ありそうでなかった”半生を、「100回泣くこと」の著者・中村航が小説化!

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