ライターは専門性を持つべき」は本当か?

イラストレーター・中村佑介さんと、「ワダアキ考」の武田砂鉄さんの対談は最終回。最後はふたりの仕事に対する考え方を話します。中村さんはなぜ「イラストレーター」という肩書にこだわりを持つのか、武田さんはなぜライターとして専門性を持つことに懐疑的なのか。ぜひ『わたしのかたち 中村佑介対談集』『コンプレックス文化論』とあわせてお楽しみください。

中村佑介の次の山とは

武田砂鉄(以下、武田) 今年でデビュー15周年ということですが、お菓子のパッケージや教科書の表紙など、もっと経歴を重ねた方がやってきた仕事をかなり若くしてやられていますよね。燃え尽き症候群というか、果たしてこれ以上の山があるのか、との思いにかられることはないんですか。

中村佑介(以下、中村) 無理やり山を探しにいきますね。その点では中国やアメリカの仕事や映画の仕事をもっと本格的にやりたいと思って、力をいれています。ただ本当の山みたいなものは教科書のイラストを描いた時点で終わったんですよ。教科書って一番難しいし、下手したら、一番のベストセラーになるような本になるわけだから。

武田 確かに全国の高校生が手にするって、相当なベストセラーですね。

中村 だからそういう意味ではクリアしちゃっていて。あとの仕事はもう、山の高さ的には、クリアしているゲームの2周目をやるようなもんだから。

武田 ただ実際に仕事をする上では、2周目、3周目の仕事があるはずです。「これ、3周目だな」って思いながら描くと、結果的にそれが作品に出てしまわないものなんですか。それとも麻痺させる方法があるんでしょうか。

中村 2周目、3周目の仕事はできるだけやらないようにしてますね。最近は本の表紙も描かないし、CDのジャケットもアジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)以外はほとんどやらない。アジカンの仕事はもう3周目、4周目になっているんだけど、それはマンネリというよりは、シリーズ化の中の楽しみを自分で見つけてやってますね。

武田 中村さんは当初、漫画家になりたかったはず。最近、コラムを書いたり、対談集を出したりしていますが、自身で物語を作りたいという欲求は出てこないんですか。

中村 ないかも。漫画家になりたかったのは、適性ではなく『キン肉マン』の絵が好きだったから漫画家という職業への憧れだったので。だから、コスプレっていうのかなあ、漫画家なりたくて、とりあえずGペンじゃなくて、ベレー帽買ってくるみたいな。漫画はコンビニで買えるし、影響力あっていいなあと思うけど、あまり自分が表現する場としては興味はないかなあ。

武田 でも一つのイラストを完成させるためには、ご自身の頭の中で、物語を投与しているはず。それが漫画という物語を作ることとは異なるとはいえ、そこへの興味がないというのは意外でした。

中村 何本か描いたことがあるんですけど、いま読んでも、自分のイラストよりはおもしろくないんだよね。やっぱり一枚の絵の方が慣れてるし、そもそも性格的に向いているってのもあると思う。

武田 イラストって、見る側の想像力で作品を楽しむことができるわけですが、漫画や文章って、書き手の思考が抽出されます。考えていることのうち、どこが面白くて面白くないかが、分かりやすい。中村さんがコラム連載などをしていて、その辺り、新しく気がついたことってありませんか。

中村 ある! その発見がおもしろい! 抽象的なイメージを拡散させたり、頭の中をぼやかしてあげるのがいうのがイラストだとすると、頭の中のぼんやりしたイメージをよりクリアに「これ!」ってまとめてあげるのが文章じゃないですか。だから編集の方の赤字を見て「なるほどー!」って思うし、「全然できてないんだ、僕」って思うから、なんだか小学生の時に戻ったみたいで、刺激的。

武田 逆に言えば、自分のイラストに対して、小学生の先生的な観点で見たとして、△や×はつかないんですか。

中村 イラストはずっと自己採点87点みたいなかんじ。描き終ってすぐはテンションが高くなっているから、100点だと思うんだけど、1日2日たって見てみると、「ここがダメだなぁ」って思うし、売上の数字が出たら、自分がマーケティングしたところに届いていないのが分かるから、それによってまた減点される。


コンプレックス文化論(文藝春秋)

クライアントはみんな100点だと思ってる

武田 今、中村さんにイラストの仕事を頼む人って、正直なところ、どんなクライアントでも出版社でも、満を持して頼んでいるはずです。簡単には頼めないし、承諾もしてくれない人だと思っているから。だから、出来上がってきた作品について、クライアントが内心で「93点」と思っていても、「100点です!」と言ってしまうかもしれない。その大絶賛の真偽を嗅ぎ分けなければいけない葛藤はありませんか。

中村 あのね、それはたぶんない。絶対みんな100点、いや120点だと思ってる。それはみんな絵が描けないし、見る力もないから。だから、絵をみて「中村さんの絵だ」ってわかる時点で100点がついているんですよ。

武田 「書き下ろしてもらった」で100点なんですか。

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中村佑介✕武田砂鉄、ダブル出版記念対談

中村佑介 /武田砂鉄

人気イラストレーター・中村佑介さんの対談集『わたしのかたち』と、cakesの人気連載「ワダアキ考」の武田砂鉄さんの評論集『コンプレックス文化論』のダブル出版記念イベントとして、青山ブックセンターで対談を行いました。「イラストレーター」...もっと読む

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コメント

marekingu #スマートニュース 約2年前 replyretweetfavorite

tokuyoshikeiji Facebookで自分の夢がかなわなかったオヤジがやつあたりしてくることはよくありますね☜どうやらよくある光景だった模様(苦笑〜 約2年前 replyretweetfavorite