左から、海猫沢めろんさん、鳥飼茜さん、荻上チキさん B&Bにて
いつの間にか学習してしまう態度のモデル
鳥飼茜(以下、鳥飼) 自分の中の規範を解きほぐすっていう意味では、私は漫画とか小説とかを書くことは、すごく意味があって。書きながら腑に落ることがたくさんあります。
荻上チキ(以下、荻上) そういうときに作品の力っていうのは受け取る側にとってもすごい大事だと思っていて。意識しないうちに内面化してしまっている規範の話があったじゃないですか。「女の子は叩いちゃいけません」みたいな。
そういう規範とか思想って、自分たちが価値観として受け入れていないつもりだったとしても、振る舞いとか言葉とか、ボキャブラリーの単位で、体に入っているものっていっぱいあるわけですよね。
海猫沢めろん(以下、海猫沢) はいはい。
荻上 よくロールモデルっていうじゃないですか。こうなりたいみたいな姿をロールモデルと。でもロールモデルを私たちは内面化して、その人を目指していきているかっていうと、必ずしもそうでもない人がほとんど。
鳥飼 そうですよね。
荻上 僕はその時にアティチュードモデルっていう言葉で説明するんですけど、態度のモデル。要は瞬間、瞬間で、この態度でいればいいんだって覚えるほうが、私たちには身近で。
鳥飼 あー。個人レベルでみんなやってますよね。
荻上 そう、学習してる。例えば、飲み会の時の上司の話し方がなんとなくうつるとか、好きなタレントの仕草がうつるとか。
鳥飼 あるね〜。
荻上 わかりやすくは、お笑い芸人の一発ギャグを飲み会でやってその場を回してっていうのは、その瞬間にウケる振る舞いを学習してそれをやるってことじゃないですか。
で、ネット上で何かに対するバッシングする態度もそうだし、何かに対するヘイトの態度もそうだけど、そういう振る舞いを学習して、思想とかまで学習してなくても、とりあえずその振る舞いをすることによって、実は知らず知らずのうちに世間の規範とか価値観を再生産している。
海猫沢 なるほど。
鳥飼 手っ取り早い適応ですね。
荻上 それがいろんな対象である。育児のやり方一つにしても、普通朝の満員電車には乗ってこないでしょっていう迷惑そうな態度とか。
ネット上でも、政治には冷めたシニカルな態度をとっていれば、いいんだみたいな。
海猫沢 はいはい。
荻上 政治についてコメントする際に最後に草(w)を生やす。政治について語るときは、嘲笑する雰囲気のほうが、わかっている感じがでるみたいな。
そういうシニシズムとポピュリズムって、矛盾しているようにみえるけど、結構相性がいいんですよね。
鳥飼 ポピュリズムっていうとなんですか。
荻上 既得権益を叩いてみせることで、大衆の支持を獲得するこるような政治スタイルのこと。今の政治はダメだーって言って、でも私はやります!みたいに、特定の熱狂を作り出すような政治姿勢。一見、政治に興味をもてない人、どうせ何やったって変わらないからみたいな態度をとっちゃう人も、そういう単純化には乗ってしまうこともあるからね。
僕は子供にいっぱいいろんなマンガとかを読んで欲しい。学校に行かなくていいから、マンガたくさん読みなさいみたいな。映画をとにかく見なさいって。
海猫沢 そうですね。それをなんとかやろうとしているんですよね。
鳥飼 作り手の当事者レベルで。
フィクションの可能性
海猫沢 僕の場合、初期からすると作品がかなり社会系になってるんですよね。それは世の中になんとか……影響を与えたいと思った時にそっちになったんですけど。もちろん、逆のことも両方やっていきたいんだけど。
鳥飼 社会性を帯びるということで、ある種の人を惹きつけるけど、ある種の人を手放してしまう。
海猫沢 そうだね。昔の村上龍とかいいバランスだと思ってて。『愛と幻想のファシズム』とか、『コインロッカー・ベイビーズ』とか、物語としてもレベル高いし、社会問題としても全部入ってるし。未来も書けてるしすごいわけですよ。
鳥飼 売れてますしね。
海猫沢 そう、しかも売れてる。
荻上 説教臭くないよね。
海猫沢 そういうのをやれると思ってるんですけどね。
荻上 「結果啓蒙」「結果学習」ですよね。読んでおもしろかった結果、こんなものもあるんだっていうことが頭の中の片隅に入って、昔どっかで見たんだけどこんな生き方の人もいるみたいだから、ありなんじゃない?みたいなものにつながるっていう。
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