コミュニケーションは永遠に終わらないゲーム
牧村朝子(以下、牧村) 多面性や多様性を受け入れるって、セクシャリティのことに限らず思うことよね。
きゅんくん すべてのことに言えますよね。私は多様性を受け入れる、受け入れないという問題よりは、「私とあなたのココが違う、それってハッピーだね」っていう考え方をするタイプなんですけど、そうじゃない人と会話をすると、「私とあなたのココが違う、つまりけなされているんだ」って思われていることに気づいて。
自分の価値観を相手に押し付けちゃうことにつながるから、気をつけないとって思いました。はっきり言わないと伝わらないから、きちんと言葉にしないといけないですよね。
牧村 それが本心からであれば、「好き」「認めてる」は言って言いすぎることはないのよね。困るのは、日本語であまり直接的な好意を示す習慣がないこと。外国だと電話切る時に「I love you」って言ったりするけど、日本語はそういう言葉がないじゃない。日本語にとって愛は秘めるもので、だから日常的に愛を伝える日本語表現は難しいんだなあって思っちゃうんですよね。「あなたのこと認めてるよ」って言っても、上からに聞こえちゃうし。
きゅんくん 「なんでお前に認められなきゃいけないの?」っていう(笑)。
牧村 そうそう。だから、敵意があって指摘してるんじゃないんだよっていうことをいい感じで伝える語彙が難しい。なんて言ってます?
きゅんくん 「それもいいね」ですね。
牧村 なるほど。秘すれば花っていうか、察するとか、日本文化にはそういうところがあるよね。
でも、それは「同質性」があったからできたこと。もしくは、みんなが同質であるということを信じていたからできていたこと。
日本社会が同質とは私は全く思わないし、そうじゃないっていうことがあまりにも目に見えてしまっている今、言葉足らずによって生んでしまう誤解も、言葉によって生んでしまう誤解もたくさんあると思う。
きゅんくん そう思います。
牧村 多様性が進むと、何かを共有しているコミュニティが、ぶどうの房のように分かれていくのよね。もしかしたら、語彙もどんどん離れていってしまうんだろうなって、今思った。
たとえば、さっききゅんくんが言ったこと、最初は私の語彙じゃないから意味がわからなかったの。「コワーキングスペースでCNCが(※1)」とか。私も仕事で、LGBTについてとか、SOGI(※2)とか、パンセクシャル(※3)についての説明を求められるんだけど。
※1:機械工作において工具の移動量や移動速度などをコンピュータによって数値で制御すること
※2:読み方は「ソジ」。いわゆる性的マイノリティであるかないかに関わらず、全ての人にそれぞれのSO(Sexual Orientation=性的指向)とGI(Gender Identity=性自認)があるのだ、という視点に立った言葉
※3:全性愛
きゅんくん SOGIは考え方としてすごく好きなんだけど、まだ伝わっている人がいない。ちゃんと説明すればわかるんだろうけど。
牧村 そうだよね。だからそういう“ちゃんと伝わるための語彙”を持つことも必要なんだろうな。
これからの時代は、「二ヶ国語話者」になっていけば渡りやすくなると思う。1つめは自分のコミュニティ、何かを共有してる人と話す時に必要な言葉。
だけど、2つめとしてコワーキングスペースって何?って言ってる人にやわらかく言い直せるのもまた必要。どっちに寄ってしまっても辛いかもしれないけど、みんなが知っている、平たくて分かりやすい言葉だけでも寂しい。
きゅんくん 複雑な話をしようと思った時に時間がかかりますね。
牧村 そうなんだよね。密度の濃いコミュニケーションができるのは、専門用語を使ったコミュニケーションだから。両方喋れるようになるように意識して、いろんな人と話そうとすること。それがもっと面白いことを知ることにつながっているのかな、と思いますね。
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