撮影・青木登(新潮社写真部)
師匠の神田松鯉は、端物と言われる一話完結のネタではなく、連続物こそが講談の命だと考えて、それが主流ではない時代からずっと実践してきた。当然ながら松之丞もその考え方を受け継いで守っている。松之丞が最近ネタ下ろしをした中に「畔倉重四郎」という話がある。名奉行・大岡越前守の政談の一つで、極悪人が人を身代わりにして死罪を逃れようとする。起伏の多い内容だ。
「『畔倉重四郎』という話は筋が面白いんですね。会の感想を聞いたら『松之丞さん、いつもと違ってぼそぼそやってたんだけど、逆に引き込まれてよかった』と。僕自身をその畔倉に完全に委ねて演じたんです。細かい工夫というよりも、講談に身を委ねた。それが連続物の醍醐味で、お客さんはそれで『次どうなるんだろう』って興味を持ってくれて、僕と一緒に『畔倉重四郎』の世界に引き込まれていく。お客さんをどこまで信用していいのかというのは自分の中で大きな問題なんですけど、そのときは『松之丞がネタ出しをするんだから面白いんだろう』と、それだけで来てくれた人がいた。ありがたいと思いますね」
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