勝新太郎さんのこと

昭和から平成の芸能界を駆け抜けてきた喜劇人・小松政夫。にぎやかで元気のあった時代を自ら振り返った半生記『時代とフザケた男』を特別連載。今回は南伸介さんのお通夜の晩、俳優・勝新太郎さんと過ごした時のエピソードです。

 三波伸介さんてね、家で死んだフリして家族をビックリさせるのが得意だったの。で、人気絶頂の時に奥さんが買い物終わって帰って来たら、暗い部屋で倒れてる。アナタまた死んだフリしてもー、なんて近づいてみたら、ホントに息がない、突然心臓発作でお亡くなりになってね。葬儀委員を伊東四朗さんとアタシでやることになった。急ですよ、52歳だもん、早すぎるよね……伊東さんと実感のないままほうけて、お通夜の対応をしたこと覚えてます、あの人が来るまでは。

 弔問のお客さんもそろそろはけて、明日も早いからアタシらもここらへんで......みたいな時に、家の前にピッカピカのジャガーがやって来た。それがキッと停まってヌッと降りて来る男の影。モーゼの十戒みたいにさ、男が歩き出すと海が割れるみたいに人波が分かれる。「遅くなりました......勝です」。

 勝新太郎さんですよ。

 映画のワンシーンみたいにね、絶妙の間をとってねえ......絵になるんだ。スターって独特のオーラがあるんだよね。それまでお開きムードだったお通夜の雰囲気がガラッと変わった。場を全部持っていっちゃう、すでに男と男の一生の別れのシーンですよ。伊東四朗さんが着せた黒の紋付き袴姿の三波伸介さんの亡きがらに、勝さんがそっと近づく。

「伸介ちゃん、寝てんだろ?起きろよ......い・そ・ぐ・な・よ」

 伊東さんも奥さんも息子さんもアタシも、残ってたお通夜のお客さんも全員、涙です。名優の力はスゴいね。ローレンス・オリビエがレストランに行ってメニューを読んだだけでウェイトレスが泣いたって話があるけど、勝さんのひと言はそれだけみんなを感動させたんだ。あの頃の勝新さんの引力はそれだけのものがあったよね。

 その後はみんな故人の思い出話でもう一献ですよ。勝さんは伊東さんもアタシもレギュラーだった三波伸介さんのNHKの番組『お笑いオンステージ』の名物コーナー「減点パパ」にゲスト出演してたんだ。子供たちの言葉で三波さんが得意の似顔絵を描く。勝さん、お子さんたちと一緒にこれに出たことがかなりうれしかったらしく、

「俺は満点パパだったんだぞ」

 いい調子になってきた。

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この連載について

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時代とフザケた男~エノケンからAKB48までを笑わせ続ける喜劇人

小松 政夫

昭和から平成の芸能界を駆け抜けてきた喜劇人・小松政夫。昭和の一時期、宴会芸は「デンセンマンの電線音頭」か「しらけ鳥音頭」でした。学校では子どもたちが机の上に登って小松政夫や伊東四朗のマネをして踊った時代。それは「小松の親分」こと小松政...もっと読む

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marekingu #スマートニュース 3年弱前 replyretweetfavorite