リー・クアンユー(シンガポール初代首相)
【第1回】矛盾した都市国家・シンガポール

悪の親玉としてイメージされがちな「独裁者」たち。この連載では、世界を代表する独裁者たちが、若い頃にどのような知識や価値観、思想などの「教養」を得て、それをどう国家支配に反映させたのかを読み解いてゆきます。第1弾はシンガポール初代首相リー・クアンユー。徹底的に整備された「庭園都市」をつくった男に迫ります。(『独裁者の教養』より)

「ライターを借りますよ」

突然、隣の席の中年男が言った。2009年3月、成田空港のカフェでの話だ。
思わず頷くと、彼はテーブルの上に置かれていた筆者のライターを無造作に取り上げた。

紙巻き煙草の葉がバチバチと火花を散らし、独特の甘ったるい香りが漂う。白地に赤い蓋をかぶせた箱に見覚えがあった。インドネシアの国民的煙草、ガラム・ヌサンタラだ。

あっけにとられている筆者に、男が言う。

「すいませんね。これ、国に帰る前に吸わなきゃダメです。捨てるの、勿体ない」

流暢だが、発音・文法ともにやや不自然な日本語だった。先刻の行動から見ても、この人はおそらく日本人ではないのだろう。

3月なのにラフなポロシャツ姿で、東南アジア産の煙草を「国に帰る前に」吸い切らなくてはならない東洋人。そんな彼の母国がどこか、なんとなく見当がついた。

税関で煙草が一本単位から課税対象となり、未課税品を国内で吸うだけで、日本円換算で3万円以上の罰金を徴収される国—。赤道直下の都市国家・シンガポールである。

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この連載について

独裁者の教養

安田峰俊

悪の親玉としてイメージされがちな「独裁者」たち。しかし、彼らは優れていたからこそ「独裁」を行えたはずです。そこで、この連載では、世界を代表する独裁者たちが、若い頃にどのような知識や価値観、思想などの「教養」を得て、それをどう国家支配に...もっと読む

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