中村佑介と武田砂鉄はプログレである

イラストレーター・中村佑介さんと、「ワダアキ考」の武田砂鉄さんの対談は中編です。『わたしのかたち 中村佑介対談集』『コンプレックス文化論』ふたつの書籍の発売記念として行われた対談でしたが、今回は弱点やコンプレックスはいかに仕事に結びつくのか、そしてそれをどう消化していくかを考えます。

中村佑介と武田砂鉄はプログレである

武田砂鉄(以下、武田) 今、大阪で中村さんの大規模展示会(※9月18日で終了)をやっているんですよね。

中村佑介(以下、中村) イラストレーター活動15周年記念展覧会です。武田さんにも15のテーマごとの解説パネルを書いていただいて。

武田 一つのテーマについて500~600文字くらい書きました。全てあわせれば8000字くらいになるので「中村佑介論」としても読んでもらえたら嬉しいですね。ほぼ全てのインタビューや原稿に目を通し、3日間くらい、ずっと「中村佑介」のこと考えていましたから。

中村 どんな気分でした?

武田 面倒臭い、と思いましたね。ただその面倒臭さに親近感を覚えました。一つのこだわりについて、どこまでも絡みついていく姿勢がありますよね。そろそろそこでやめとけ、ってところの、更に一つ先に突っ込んでいく感じというか。そろそろやめといたほうがいいかな、いや、でも書く(描く)という共通項があるのかも。

中村 で、自己嫌悪するんでしょ。

武田 そうです、踏み出さねばよかったと自己嫌悪。中村さんの対談集の中で、さだまさしさんが、イラストを中村さんが手掛けたジャケットを見ながら、その要素の多さを褒めつつ、「俺は自分の音楽はプログレだと思っているんです。(中略)この絵を見て、中村さんはその俺の本性を見抜いているように感じた」と発言している箇所があるんですけど、自分もお世話になった音楽雑誌の編集長から「武田君の文章はプログレみたいだね」って言われたことがあって、それがすごい嬉しかったんです。

中村 武田さんも言われたことがあるんだ。

武田 キング・クリムゾンなどが顕著ですが、複雑な要素を同居させ、どんどん転調していく。それを最終的に一つの曲やアルバムとして聴いたときには、緻密な構築物に見える。それは決して聴きやすい音楽ではないけれど、ならではの世界を構築している。自分はスラスラ読みやすい文章を書いている自覚もないし、ストレスを感じる文章だと言われることも多いけれど、緻密性がそうさせているならば、悪い事ではないと思っています。

中村 読みにくいっていうよりも引っかかるようにしていますよね。

武田 引っかかりの要素をパターン化せずに、どこかに引っかかってもらえれば、との想いがありますね。

中村 たしかにそういう意味ではよくわかる。

武田 中村さんの絵は緻密です。その要素の多さが、作品として俯瞰したときに中村作品だと決定づけられる。そのあたりが、さださんの言うプログレっぽさだと思いましたが。

中村 一方で僕は「そこが自分の弱点だな」とも、ずっと思っているんですよ。たとえば、「中村佑介の絵の魅力ってどこだと思いますか」って聞いたら、10個くらいの答えが出てくると思うんですよ。女の子がかわいいとか、動物がかわいいとか、色がきれいとか、構図がおもしろいとか、なつかしいとか。でもそれをどんどん集約していかないと、伝播力の強いものになっていかないなと。 『わたしのかたち』でキティちゃんをデザインした山口裕子さんや、ビックリマンのキャラクターデザインをした米澤稔さんとお会いしたときに感じたんですけど、キティちゃんとビックリマンの伝播力や耐久力って強いじゃないですか。「キティちゃんってどんなキャラ?」と聞けばみんなが「かわいいキャラ」と答えるし、人にどんどん感染して、年代も国境も飛び出していく強さがある。

武田 では自分の作品は、感染力が弱い、と思っているということですか。

中村 僕の絵は良い意味では繊細。悪く言えば「ややこしい、面倒くさい、そもそも見ない」みたいな印象も、”売り”と同時に起こっていると思うんです。そういう意味では、この前やったロッテのチョコパイのイラストは、デビューしてから15年でようやく克服できたのかなと。「この前のチョコパイの絵ってどんなのだった?」って聞いたときに「かわいい」って答えてもらえるようなものができたと思います。

中村 チョコパイで「おもしろい」じゃなくて、「かわいい」にできたから、こういうかんじで今後10年間は、どんどんシンプルで俗っぽいものにコミットしていけたらいいなと思っています。

武田 自分は空間恐怖症みたいな文章を書くことがあるのですが、「いいや、この密度じゃなくてもいいのに」と思われている節もある。

中村 武田さんの文章、読みたくないときあるもん!

武田 自分でも思いますね。疲れた時に、読みたくない。

中村 新幹線では読みたいけど、お風呂では読みたくはない(笑)。武田さんの文章って読んだ以上の情報量が入ってくるし、目の前に人が座ってきてどんどん対話をしてくるかんじだから、「風呂には入ってくるなー!」ってかんじ(笑)。

武田 これまでの本も今回の本もそうなんですが、いわゆる「中央線文化」な書店の売れ行きはよくても、中央線の始点である東京駅あたり、つまりオフィス街の書店ではそうでもない。

中村 そういうエリアはサラッと読める新書がいいんでしょうね。

武田 夜遅くまで働いて、さぁ満員電車で帰ろうというときに、満員電車みたいな文章を読みたくはない。

中村 あははは。文字びっちりですもんね。

弱点が個性になるのはいいことなのか

武田 中村さんは、高校生の音楽の教科書で表紙を描かれていますが、当初のイラストから修正要請があったそうですね。どういったところに修正が入ったんですか。


高校生の音楽1(2017)(教育芸術社)

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中村佑介 /武田砂鉄

人気イラストレーター・中村佑介さんの対談集『わたしのかたち』と、cakesの人気連載「ワダアキ考」の武田砂鉄さんの評論集『コンプレックス文化論』のダブル出版記念イベントとして、青山ブックセンターで対談を行いました。「イラストレーター」...もっと読む

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