奥田民生になりたいボーイだった阿部君

今回取り上げるのは奥田民生と阿部君。ファンの方ならピンとくるかもしれませんが、奥田民生と仲がいいユニコーンのメンバー・阿部義晴、ではなく、武田砂鉄さんの学生時代から友人の阿部君です。今回は奥田民生と「奥田民生になりたいボーイ」だったという阿部君について考えます。
本日掲載の中村佑介さんと武田砂鉄さんの対談もあわせてお読みください。

「まさかWANDSにキーボードだけ残るとは思わなかったボーイ」

自分の中学時代は「奥田民生になりたいボーイ」ではなく、「まさかWANDSにキーボードだけ残るとは思わなかったボーイ」だったのだが、親友の阿部君がとにかく奥田民生好きで、B’zが全篇英語詞のシングル「Real Thing Shakes」を出した時に、「やっぱレベルちげぇな」と自慢げに語った私に対し、「民生の『息子』って曲はニューヨークレコーディングだから」と牽制してきたことがあった。すっかりこちらを黙り込ませた阿部君は後にアメリカ人女性と結婚、今ではアメリカ南部の田舎町に住んでいるらしく、昨年の今頃、「トランプのことで取材とか来るなら言ってね」という雑なメッセージを送ってきた。阿部君のせいで、俗に言われる奥田民生=「マイペース」というイメージだけでなく、「進んでいる」というイメージも強いのだ。

渋谷直角『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』には、光栄なことに拙著『紋切型社会』が登場している。「民生になりたい」編集者・コーロキが、早いとこ仕事を終えて、出張で大阪にいる「狂わせるガール」天海あかりのところへ向かいたいのだが、コラム原稿が一向にやって来ないことに辟易し、デスクに脚を乗っけて考え込むシーン。物思いにふけりながらうっかり寝てしまい、バサッと床に落としたのが拙著なのであった。そこでの物思いとは「民生を『のんきだ』『マイペースだ』と思っているのはあくまで受け取る側なのだ!」で、阿部君も当時からそんなことを言っていたから、他人の漫画の中でかつての友情を確かめ合えたかのようで、贅沢な気持ちになったのである。映画を見たが、残念ながらそのシーンは再現されていなかった。

「わざと外したところがニクい!」みたいな

奥田民生は、「よくマイペースとか言われるけど、そんなペースないですから、世の中に」(『ボクらの時代』9月17日)と語るように、飄々と活動を続けているイメージにはあまり納得がいっていない。これまでの発言を振り返ってみても、「『呑気だ』って言われるじゃない? それは嫌なんですよ。もともと呑気じゃないんだもん」(奥田民生『俺は知ってるぜ』)といった牽制を重ねてきた。ただし、牽制しつつも、そう思われていることには自覚的で、自分は「お客さんをハイな状態にしなくていい役」だから、たとえ盛り下がったとしても、「『それはそれでいい』って言ってくれる人もいるでしょ。『わざと外したところがニクい!』みたいな(笑)」(奥田民生『ラーメン カレー ミュージック』)などと言う。

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ワダアキ考 〜テレビの中のわだかまり〜

武田砂鉄

365日四六時中休むことなく流れ続けているテレビ。あまりにも日常に入り込みすぎて、さも当たり前のようになってしったテレビの世界。でも、ふとした瞬間に感じる違和感、「これって本当に当たり前なんだっけ?」。その違和感を問いただすのが今回ス...もっと読む

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