1週間後。エリとの最初の待ち合わせ場所は、渋谷、センター街入口。
ネット通販で買った、サイズの合わないチェックのシャツを水色のジーンズに入れ込んだひろ。ファッション的に5メートルほど街から浮いているひろに対し、ニットチュニックにタイトなパンツとブーツを合わせたエリは紀元前生まれ(なおかつゾンビ)とは思えぬほど現代の渋谷にも馴染んでいる。
少し離れて見ると、エリは外国人だとは思えないほど日本的な顔つきをしている。古代ギリシア人は、ある程度オリエンタルな雰囲気も持っていたようだ。しかし間近でじっと観察してみるとやはり西洋の血と歴史を感じさせる顔立ちで、そのわずかな違和感が余計に彼女の美貌を際立たせており、素性を知るひろはエリに対面するといろんな意味で身震いに襲われた。
「おお、おはようございますエリさん……えっエリ先生……」
「なにビクビクしてんのよあんたは!! まだ私を怖がってるのっ!?」
「ひい〜〜〜っ!! ここ、怖がってませんよ、怖いなんて滅相もないですむしろ尊敬しておりますっ、どうぞ怒りをお収めくださいぃ〜おおお怖いい〜〜怖いよ゙お」
「ふんっ。じゃあ行くよ。早くこの汚い街から出たいのよ私は」
「じゃあ渋谷集合なんてしなきゃよかったのに! ……あれ、でもたしかに、今日のセンター街はめちゃくちゃ汚いですね。ゴミだらけだ」
ひろの言う通り、路地には空き缶や空き瓶やペットボトル、ハンバーガーの包装紙やコンビニのレジ袋やその他あらゆる紙クズ・ゴミが散乱していた。普段のセンター街とはひと味違った光景だ。
「そうだ、そういえば昨日はサッカーの日だ! うわあ、それでこのゴミかあ……ひどいなぁ……。エリ先生、昨日、日本代表がサウジアラビアに逆転勝ちしたんですよ。それでスクランブル交差点に若者が殺到して大騒ぎになったんです」
「知ってるわよ。私ここにいたから」
「え? エリ先生、昨日も渋谷にいたんですか?」
「そうよ。さすがにちょっと、食べすぎたわ。お腹がパンパン。十日は食事抜きでいいくらいね」
「なにがっっ!!! なんの話をしてますか先生は!!!」
「だから昨日の食事よ」
「も、もしかして……、食べたんですか? サッカーファンを?」
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