実体験とフィクションと願望
——『ボクたちはみんな大人になれなかった』は、半自伝的に燃え殻さんの実体験が多分に含まれている作品ですが、堀込さんは歌詞にどれぐらい自分を投影しています?
堀込泰行(以下、堀込) 100%自分っていうわけでもないですねえ。自分の経験の中から出てきたものしか作れないので、ある程度はそうですけど、ちゃんと物語を書きたいというか人を楽しませるものにしないとダメだって意識は持つようにしてます。そういうことを一切無視してた時期もありますけど。結局、自分の気分さえ表現できていれば、描かれてることはフィクションでもいいっていうことかもしれません。
燃え殻 大槻ケンヂさんの著書で「リンダリンダラバーソール」という、ほぼ自伝と言われているような小説があるんですが、駒子という大槻さんファンの女の子が出てきて、駒子と大槻さんが付き合ってるみたいな感じで話が進んでいくんですね。
本の中では、大槻ケンヂさんが初めてオールナイトニッポンを任されたときに怖くて一度逃げるんですが、歩道橋かどこかで彼女がブロン液を飲ませて「大丈夫だから行きなよ」って背中を押してあげるんです。あと、2人が別れて何年か経ったあと、駒子はもう結婚して普通の家庭を築いていて、一方の大槻さんはまだブースカと一緒に歌ってる……っていうシーンがあって、「あなたはそのままでいいのよ」と彼女が諭すんです。そんな駒子のキャラクターが僕は好きで、この間大槻さんとトークショーをしたとき、裏で「駒子っていいですよね」と伝えたら「あれ、いないんだよね」って言われて唖然とする、ということがありました。
堀込 フィクションだったんだ。
燃え殻 僕の小説にもそんな部分があって、六本木の交差点でひっくり返ったときに助けてくれたヤクザっていないんですよ。そのときは自分で傷の手当をして行ったんです。それに、いじめられていた子供時代、ビリビリに破かれた教科書をセロハンテープで修繕してくれたストリッパーのお姉さんもいなくて、実際は自分で貼ってたんですよね。
堀込 あーそうなんだ。
燃え殻 大槻さんはもしかしたら、本人に聞いてないのでわからないですけど、初めてのオールナイトニッポンのとき歩道橋で1人でブロン液を飲んだのかもしれないなって、今は思うんです。ブロン液飲ませて「行ってきなよ」って気合い入れてくれる彼女がいてほしいっていう願望も込みで、ああいうふうに書いたのかなと。僕自身も、あそこで助けてくれる人が誰かいてほしいって思ったし、セロハンテープを貼ってくれるような誰かがいて、「世の中捨てたもんじゃない」って思いたかった。読んでる人に対しても「それでもこの世界は捨てたもんじゃないよね」っていうメッセージは持たせたかったんですよね。
堀込 うん。
燃え殻 書籍化にあたって、連載にあった架空の登場人物の部分を丸々削るという案も出たんですけど、事実がどうこうより、何を残すか何を足すかはかなり考えました。いろいろ言われちゃうんですけど僕の中ではエンタメに落とし込んだ“小説”なんですよね。