昔からネットワーク社会だった中国
與那覇潤(以下、與那覇) 前回お話しした通り、今の議会政治よりはムラ社会の方が日本人の心性には「フィットしている」とは思います。ただ、ムラ社会の欠点をネットが担保できるとは思えないんですよね。
岡田斗司夫(以下、岡田) なにか理由があるんですか?
與那覇 岡田さんはネットワーク社会を非常に新しいものと考えて、それに期待されていますけど、実は歴史を振り返ってみると、たとえば中国って昔からネットワーク社会なんですよ。
岡田 そうなんですか!
與那覇 親密感に立脚する近くて深いコミュニティ的な人間関係から成立していたのが、江戸時代の日本のムラ社会ですよね。だけど、中国はそれよりも広く浅く、父系血縁のような遠距離の親戚にもアクセスできるコネクションで、人のつながりが作り出されていた。かつ移動の自由が担保されていたので、いわば「血縁ネットワーク社会」が成立していたんです。しかしその上で、道徳と政治が一致した究極の独裁が行なわれていた。
岡田 ああ、中国では皇帝がトップの人徳者ですもんね。それで、地方から国家試験で選抜された人徳者たちが官僚組織となって、皇帝のサポートと監視を行なう。
與那覇 科挙制度ですね。でも、中国ではネットワークが社会の透明性を補って政治がうまく機能していたかというとそんなことはなくて、むしろ弊害が強く出ていた。不道徳に対するバッシングが過剰で、人民裁判も盛んに行なわれました。
岡田 あれって共産主義の制度じゃないんだ。
與那覇 違うんです。たしかに人民裁判って聞くと、文化大革命のときに守旧派の共産党官僚が引きずり出されて民衆から罵声を浴びるものを想像してしまう人が多いとは思います。でも、同じしくみは前近代からあったんですよ。
岡田 へえ、知らなかったです!
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。